朝起きると窓の外は雨だった。
憂鬱な気分を引きずったままカーテンを閉めてベッドへ舞い戻る。祝日はこんな事も出来るから都合がいい。今日はなんの日だったっけか、と謙也はまどろみながら考えた。昨夜、蔵ノ介とのやり取りの中でそれらしき単語が出たのを覚えていたのだ。電話の向こうで、蔵ノ介は楽しそうに笑っていた。晴れたら出掛けようとも言っていた。謙也はぶっきらぼうに返したが、密かに蔵ノ介との約束を喜んでいた。
それが起きてみれば雨である。ふて寝をしたくなるのも仕方がないだろう。残念がっているだろう蔵ノ介をどう慰めようか、そんな贅沢な悩みを抱えながらひっかぶっていた掛け布団を蹴飛ばす。

その瞬間、前触れ無しに部屋の扉がけたたましく開けられた。


「謙也!起きとるか!」
「!?」


ノブを回した音、壁に扉が叩き付けられた音の後に聞こえたのは家族以外の声だ。寝起きの頭をフル回転させるよりも先に謙也は混乱した。
考えてもみてほしい。夏の盛りに及ばぬとはいえ、ここは年々気温が上昇している大阪だ。一晩中クーラーをつけるわけにはいかず、かといって布団無しに就寝するわけにもいかない。早い話が謙也はまともに寝間着を着ていなかった。Tシャツに下着のみである。
そんなところに知らない(かもしれない)誰かが来るなど、誰が想定するだろうか。しかし幸いなことに声の主は蔵ノ介だった。だが、ちょうど思考の渦中にいた人物が現れた事によって、謙也の混乱に拍車がかかってしまったのだ。


「なんや、今起きたとこか?」
「……起きとらんかったらどないするつもりやったんや」
「そら無理矢理起こしとったやろな」


蔵ノ介はからからと爽やかに笑う。まるで雨が嘘のように思える笑顔に、謙也はガラス越しの空をもう一度確認した。しかし重苦しい空は雨を降らせたままだ。こいつはいつでもこうなのか。それなりに理解しているつもりだったのに、それはただの思い込みに過ぎなかったようだ。
蔵ノ介は迷う事なく謙也の元へ向かうと、謙也のシャツの胸元を掴んで持ち上げた。されるがままの謙也は、蔵ノ介がまとうかすかな湿気りに気付いた。
そうだ。こいつは雨の中、ここまで来てくれたのだ。


「雨降っとんのにわざわざ俺が来たんやで。謙也はなんもしてくれへんの?」


誘うように笑う蔵ノ介を、謙也は力強く抱き寄せた。咄嗟の事にバランスを崩してしまった蔵ノ介は、腹いせに謙也の耳を噛んでやった。寝起きだというのに、謙也の肌は少し冷たかった。



ふたつの奏で









とても楽しかったが難しい
朝の謙也は低血圧なイメージが

2011/7/19
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