ユウコハ←蔵


じっとりと汗ばむ一日だった。炎天下での練習は、ただでさえ思考を鈍らせる。二人きりのこの状況が、余計に判断力を失わせていたのかもしれない。蔵ノ介は他人事のように考えた。
窓は日の暮れを映し出し、退廃的な雰囲気を更に強調させていた。これからしようとする事の罪深さを、自覚をしているからかもしれない。

「蔵リン?どうかしたの?」

普段と違う状況でも、小春の冷静さは変わらない。それが少し憎らしい。意識などされていないとわかっていても我が儘を言いたくなるのが男と言うものなのだ。

「なあ、小春。ユウジやめて俺にせんか?」

冷たいロッカーに小春の体を押し付けたのは、つい先程の事だった。他の誰もいない、蔵ノ介と小春だけの部室。
二人で残る言い訳などいくらでも考え付くのだ。それが嘘でもそれらしく飾ってしまえばみんな信じてしまった。特に一番厄介だった男は、すぐに。

「男やったら、ユウジやなくてもたくさんおる。……やったら、俺を選んでくれてもええやろ?」

俺以外の、音も、声も、何も。
自分以外の何もかもを耳が拒絶していた。答えをわかっているからこそ、聞きたくないものもある。それだのに時間は残酷に過ぎていくのだ。
小春は笑う。それはそれは綺麗で、まるで残酷な宣告のようだ。

「蔵リンてばなに言うとんの?冗談きついでぇ?」

小春はさりげなく蔵ノ介の腕をどかした。離れてしまう。それをわかっていても、もう一度手を伸ばすことは、蔵ノ介には酷く難しい事だった。
ジリ、と電灯が一度瞬いた。合わせるように、蔵ノ介も瞬きをする。

「……せやな。変な事言うてすまんなあ」
「ええんよ。今日暑かったし、蔵リンも疲れてんねやろ。ほら、もう遅いしはよう帰ろ?」

なあ、知っとるか小春。優しいんは時に残酷なんやで。そそくさと部室を出ていく小春の背中を、蔵ノ介はただ静かに見つめていた。










よくわからない

2011/7/18
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