「どこにも行かんといて」

自分でも笑えるくらい弱々しい声だった。でも切実な問題だ。跡部は俺一人がいなくなったって痛くも痒くもないだろう。けれど俺は違う。跡部がいなくなってしまうと想像するだけで情けなくなってしまう。跡部に俺は必要ではないけれど、俺には跡部が必要不可欠なのだ。
華奢な体にすがり付いた俺を、跡部は何も言わずに抱き締め返してくれた。それこそ嫌な顔ひとつせずに。ほんのわずか、救われた気がした。

「なあ、跡部。お前がおらんくなったらどうしたらええかわからんくなるんよ。けどお前に必要とされとらんのもわかっとる。俺らの接点言うたらテニスと歳くらいのもんや。それ以外になんっも見つからんのやけど、跡部は、それでも俺の隣にいてくれる?」
「……離れねーよ。絶対な」

安心したふりをして跡部の頭を撫でた。やわらかい髪の毛。女のものよりここちいい。

「ありがとな、」

跡部の返事はない。俺がこれ以上を望まないと知っているから。欲を出してしまえば本当に離れる時の辛さが増す。実のところ俺はただの弱虫だった。跡部はちがう。だから俺はかなしかった。



嘘つきの首を絞める






忍跡ってよくわからない

2011/7/12
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