最近、長太郎の様子がおかしい。部活ではそうでもないが、たまに一緒に帰ると不自然にきょろきょろまわりを見回したりして挙動不審になる。それからたまに俺を避けたりする。害はないから放置しておいたんだが、それが頻繁になっては気にせざるをえなくなる。特に俺は、元とはいえ長太郎のダブルスパートナーなのだから、出来るならば悩みとかは相談してもらいたい、んだが。

「…それで?どうして俺に鳳なんかの事を訊こうとするんです」
「いや、お前アイツと同じ二年だろ?何か知ってねえかと思ってな」
「俺が宍戸さんよりアイツに詳しい筈がないでしょう」

確かにそれもそうだ。日吉は下剋上したがりだもんな、興味の対象は跡部だけなのかもしれない。それでもまあ訊いてみる価値はあるだろうと声を掛けたのだが、にべもなくそっぽを向かれてしまった。

「だいたい、鳳が考える事なんて俺には見当もつきませんよ」

日吉の冷たい言葉に頬杖をついた。ブレザーのボタンをきっちり閉めて出て行く日吉に、さて、どうしたものかと溜め息をついた。本人に直接訊くのは最終手段だから、できれば今は使いたくないカードだ。けど、俺の他に同じくらい長太郎と親しい奴なんてすぐには思い付かない。普段も今も、俺のそばにばかりいるものだから奴の交友関係を気にしたことなんてなかった。

全国大会も終わり、俺たち三年生はテニス部を引退した。といっても引退なんて実質書類上だけのようなもので、レギュラーの座こそ引き渡したものの今も俺たちは頻繁にテニス部に顔を出している。内部進学の奴らが多いからこそ出来る芸当だ。そうでなきゃなんの嫌味だと言うんだ。俺たちが顔を出すと、新部長の日吉は苦り切った顔をし、長太郎はあからさまに、樺地は心なしか嬉しそうな顔をしてくれる。後輩が育つこと、そして見慣れた三人の顔を見るのが余裕のある日の楽しみだった。
なのに、喧嘩もなにもしていないのに長太郎に避けられている。それが地味にきつい。気にしだすと余計にだ。気付かないうちに気に障ることをしてしまっただろうか、と頭を悩ませた。

「あれ、宍戸さん?」
「……長太郎」

日吉がいなくなってから俺一人しかいなかった部室でうじうじしていると、耳慣れた扉を開く音がした。開けたのは悩みの種の長太郎だ。ずいぶん前に帰ったと思っていたのに。忘れ物でもしたんだろうか。

「よかった、まだここにいたんですね。探してたんですよ」

屈託なく笑う長太郎に胸が痛くなった。とても悩み事があるようには見えないが、それでも隠し事をされているのではと疑っている自分に嫌気がさした。長太郎、と掠れた声で奴の名前を呼んだ。

「なんですか?」
「お前…最近俺の事、避けてるだろ」
「え…」

漏れた声にしまった、とでも言い出しそうな顔をして長太郎は自分の口を大きな手で塞いだ。やっぱりな、なんて嫌な確信をしてしまう。気のせいでも自惚れでもなかった。俺はこいつに、避けられていたのだ。知らないうちに嫌われていたんだろうか。無理強いをさせていたんだろうか。

「ちが…あの、宍戸さん、俺は」
「いい、何も言うな。悪かったな、今まで気付いてやれねえで」
「……宍戸さん!」

呼び止める声に振り返りもせず、荷物を乱暴に掴んで部室を飛び出した。どうしてこんなにもつらいんだろう。嫌われる可能性がなかったわけでもないのに。俺は心のどこかで、長太郎は離れていかない、俺を嫌ったりしないと、自分勝手に思い込んでいたのかもしれない。あいつの気持ちを、少しも考えやしないで。日も落ち始めた帰り道を一心不乱に走り抜けた。俺を呼ぶ長太郎の声が、耳から離れなかった。



居場所を見失う






一度書いてみたかった鳳と宍戸
続きはBL予定です

2011/6/23
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