「歯医者はいやだああああ!!」

放課後、部活に向かう途中に聞こえてきた情けない悲鳴はほぼ間違いなく丸井先輩のものだ。なにがあったか確かめるためと、面白いことが起こりそうな予感に惹かれて足を早めた。

「あれ赤也、今日は早かったね」
「担任が休みなんで早めに終わったんス!それより、さっきの悲鳴って…」
「ああやっぱり外まで聞こえちゃってた?」

息を切らして開けた部室のドアの先、一番近くにいた幸村部長が仕方なさそうに笑う。あれあれ、と促す視線をたどった先には、案の定丸井先輩がいた。あの真田副部長と取っ組み合いを演じている。え、なにこれ。まったく意味がわからない。

「ブンちゃん、虫歯があること隠してたんよ」
「へ?虫歯?」
「おん、」

それがどうして取っ組み合いに発展するんだ。ますます意味がわからなくなった。

「わからん?ほれ、不摂生しとると虫歯なるじゃろ」
「まあ…そうッスね」
「つまり、虫歯になるっちゅう事は生活が乱れとる証拠じゃ」
「……ああ、なるほど」

なんとなくだけど、わかった。ようするに、油断して歯磨きしなかっただかで虫歯になった丸井先輩を、真田副部長はたるんどると叱ったんじゃないだろうか。そんで早急に歯医者にかかってこいーだのと言われた丸井先輩が、冒頭の台詞を叫んだ。とかそんな。

「うん、まあそんなとこだよ。ところで赤也は虫歯なんてないよね?」
「当たり前ッスよ!」

先週行かされた定期検診でも何も言われなかったから、虫歯なんてない筈だ、たぶん。本当に?と念を押してくる幸村部長はこわい。つうか向こうに参戦して下さいよ。ほら丸井先輩いじれて楽しそうッスよ!?

「丸井は普段散々いじってるからいいの。ほら赤也、あーんしてごらん?」
「ちょ…仁王先輩!笑ってないで助けてくださいよ!」

真田副部長の怒号と幸村部長と仁王先輩の笑い声。カオスだ。部室がなんだか酷い事になっている。

「丸井イイ!いい加減に覚悟を決めんか!」
「やだよ!歯医者こええもん!」

もんってなんだガキか。ああ、早く残りの三人も来てくれねえかな。この状況、誰かどうにかしてくれよ。




治さずば禁糖






ブンちゃんは歯医者嫌がりそうだなと思って
ジロくんの歯医者ネタもあるでござる

2011/6/22
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