いつにも増して幸村がこわい。逃げても逃げても追ってくる。休みの度に追っかけてきたから、今日の昼は旧校舎の空き教室で摂る事にした。あいつは旧校舎までは追って来ないのだ。それを知ってるから逃げ込んだ。

今日は、バレンタイン、だ。恋人、あるいは好きな人、世話になってる人へのお礼にチョコや花束をプレゼントする日。気まぐれで便乗する気を少しだけ持っていた俺は、昨日の部活帰りに捕まえたブンちゃんとチョコ作りはばっちりした。ただ渡し方が問題だ。普段素直に気持ちを伝えないのがこんな時に仇になる。もどかしくて教室の柱を蹴った。

「仁王君、柱は蹴るものではありませんよ」
「うおおどっからわいて出た」
「失礼ですね。先程からいましたよ」

なん…だと…?気配を消していたと言うのかこのメガネ。悔しくなって柳生の弁当を引ったくった。この匂い、今日は唐揚げが入っているな。

「そんなに見なくとも差し上げますよ」
「ほんまか!好きじゃぞ柳生!」
「お気持ちはありがたいですが死にたくないのでご遠慮します」

死?なんの話だ。開かれた弁当から本人が食べるより先に唐揚げを奪う。柳生のとこの唐揚げは味付けがちょうど俺好みなのだ。

「ところで仁王君、どうしてこのような場所に?」
「そりゃあこっちの台詞ナリ。なんぞ用事があるわけもなし」
「私は仁王君がここにいる予感がしましたので。…冗談ですよ。入って行くのをちょうど見かけたのです」

柳生が予感とか言ったらしゃれにならない。エスパー?クレボヤンス?とにかく特殊能力を持っていそうで。あ、そりゃ幸村か。

「幸村君があなたを探していましたよ」
「…ここにおるって教えたんか」
「いえ。知らないとお答えすると、寂しそうに部室の方へ歩いて行かれました」

寂しがる幸村。それはさぞかし見物だろう。想像が出来なさすぎて笑った。柳生が仕方無さそうに笑った。「仁王君」の呼び声に背中を押されるように、空き教室をゆっくり去った。






雅治くんは逃水のイメージがあるます

2011/6/17
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