あれから何かがあるでもなく、ブン太と二人、連れ立って式場へと戻った。車内は気まずい空気で満ちていて───と、いう事もなく。海からはそれほど離れていなかったお陰で「誓いの言葉」には間に合ったものの、後で文句を言われるのを覚悟しながら最後列に座った。最前列の向こう側、十字架の前には姉と、幸村がいる。どちらの背中も幸せそうで、どうしてあいつを諦められないんだろうかと惨めな気持ちになった。そうしているうち、幸村と姉が口付けを交わした。これほど離れていても見えてしまう。見てしまう。隣のブン太が何やら言いたげに俺を見た。奴を見はせずに、ただひたすら、前だけを見ていた。



「雅治!あんた一体どこ行ってたの!」
「…間に合ったんじゃけええやろ。気分転換ナリ」
「そういう問題じゃないでしょう、この子はまったく!」

案の定、式後すぐに母親に捕まった。わかりやすく怒る母を、花婿姿のままの幸村がなだめている。

「丸井も一緒だったってことは、きっとなにか理由があったんですよ。そうだよね、二人とも?」
「ああ、こいつが気分悪そうにしてたから俺が無理矢理連れ出したんだ。だからおばさん、仁王は悪くないぜ!」

適当な言い訳をしようとするより先に、ブン太が一歩前に出た。かばってくれなくとも平気だのに。まるで壊れ物を扱うようなブン太の行動にため息をついた。愛されすぎじゃろ、俺。

「まあ、ちゃんと戻って来たから良いんだけどね。せめて身内に一言かけるのを忘れないように」
「…おん。すまんかった」
「母さんじゃなくて、姉さんや精市くんに言いなさい」

それから挨拶があるからと、母親は嵐のようにこの場を去った。気を張っていたけれど、娘を嫁にやるのはやはり辛いのだろう。目の端に、少し涙が溜まっていた。

「お義母さん、泣きそうだったね」

それを言う幸村の声も、少し、ほんの少しだけ震えている。どうしたんだ、らしくないぞと普段ならばからかうところだのに。

「ありゃあ嬉し泣きじゃ。気に病んだりせんでええ」
「そっか。雅治が言うんなら、そうなんだろうね」

なのにどうして、フォローじみたことをしているのだろう。雅治。その呼ばれ方にも、最初程の違和感を覚えなくなっている。こうやって、慣れていくんだろうか。目の前で笑う男を好きだったことも、忘れていくんだろうか。






2011/6/16
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