臆病な俺と違って、姉は積極的な人だった。一度好きと思ったら、ためらいなしに突っ込んでいく。それで失恋した男は数知れず、せっかく美人なのにもったいないと常日頃から思っていた。だから。幸村の時も、きっとまた姉はフラれると、そう思っていたのに。

「俺なんかでよかったら、よろしくお願いします」

何度目か。姉からのアタックを受け続けた幸村は、よりにもよって俺の目の前でそう言い放った。姉も姉だ、弟の部屋で告白をする女がどこにいる。文句を言ってやりたかったのに、姉の嬉しそうな顔と、その上に幸村の照れた笑顔を見せられてしまっては、もうそれどころじゃなくなった。同時に、俺じゃ幸村にこんな顔をさせられないと、思い知らされた。

「おい仁王。幸村くんの結婚式なのにそんな暗い顔するなよぃ」
「ええのう、ブンちゃんは悩みなんぞなさそうで」
「それどーいう意味だよ、おい」

心配そうな目を向けられても、相談する気など更々なかった。そもそも人に言うことでもないだろう、好きな男が姉と結婚してしまうだなんて?
そもそも同性なのだ。日本では同性のパートナーは法的に認められていない。それでも、一生涯を共にいられなくても、近くにいられるならばそれでよかった。幸村が結婚したとして、平常心でいられる、筈だった。

「なあ仁王、お前幸村くんのこと好きだったんだろ?」
「いきなり何を言い出すんじゃ、このデブン太は」
「デブ言うな!…じゃなくて、見てたんだからそれくらいわかるっつーの」

どこから取り出したのか、ガムを口に投げ入れてブン太は笑った。包み紙を握りしめた拳を、得意気に俺に向かって突き出した。

「つらいんなら、抜け出そうぜ。そんで二人で遠くに行こう」
「馬鹿なこと言いなさんな。もうすぐ式が始まる…」
「いいから来てくれよ。俺だって、ずっと仁王が好きだったんだよぃ!」

冗談はよせと笑い飛ばす前に、手首を掴まれていた。引きずられるようにブン太に続いて走った。うろたえた人だかりのざわめきが鬱陶しい。心が晴れていく。

そうだ、俺は、ここから逃げ出してしまいたかったんだ。







2011/6/3
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