雨のよく降る季節の事だった。たまの晴れの日を狙って、それは開催された。祝いの席で、しかも絶対にないと思われていた姉の結婚式は、想像以上の盛大さだった。

「凄い人だね。酔っちゃいそうだ」
「主役のおまんが酔ったらいかんじゃろ。戻っとかんで平気か」
「うん、大丈夫。冗談だから」

式場を見上げる俺に話しかけた奴は、真っ白いタキシードを着こなしていた。式まで時間が余っているから、暇潰しに来たのだろう。俺のところでなく、姉の元へ行けばいいのに。

「まさか仁王を義弟にする日が来るとはね。思い付きすらもしなかったよ」
「それ、俺の台詞なんじゃけど」

嘘だ。家に遊びに来た幸村を姉に紹介した時、なんとなくこうなる予感はしていた。それが早いか遅いかの、違いだ。

「……そろそろ始まる時間じゃ。戻って準備してきんしゃい」
「ああ、そうだね。それじゃ、また後で」

手を振って花婿が去っていく。極彩色の中でも奴の白と藍は、よく目立つ。せめてあの角を曲がりきるまではと。背中を見ていると不意に幸村は振り返った。壁に半分体を隠して手招きをしている。言い忘れでもしたのかと、小走りで奴に駆け寄った。

「もし途中で逃げたりしたらお仕置きだからね、雅治」
「…っ、ゆき」
「最後までちゃんといるんだよ!」

言うだけ言って幸村はまた背を向けた。今度は立ち止まらない。振り返らない。すぐに姿が見えなくなった。

その名前は、言わずにおいてほしかった。そうしたら諦められる筈だったのに。
忘れられる、筈だったのに。








2011/6/3
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