好きな人は年上だ。ひとつ年上の、テニス部でも先輩の男の人。その人は、大抵はダブルスの相方と一緒にいるか、一人きりでふらふらと歩いている。
そんな先輩が告白されているのを、たまたまとはいえ見てしまった。何を言われているかまではわからない。先輩がどう答えたのかも。ただひとつ、先輩が結ばれるべき異性に好かれている事実を改めて突きつけられて、いてもたってもいられなくなった。告白相手が立ち去るが先か、俺が踏み出したのが先か。そんなことを、意識する暇なんてなかった。

「仁王、先輩」
「赤也?なんじゃ、覗き見とは趣味が悪いのう」

責める様子もなく、先輩は軽く笑った。驚いた風でもないから、最初から俺がいることを知っていたのかもしれない。

「先輩、俺も、俺も先輩が」

細い肩を掴んでも、咎める言葉は聞こえない。先輩は静かに見下ろしてくるだけだ。その凪いだ瞳だけで十分だった。先輩が。そこで俺の動きは止まってしまった。
お前もそんな事を言うのかと。失望しきった瞳だった。そのまま先輩は、黙って俺の手をどけた。何を言おうとしているのか、口を開いてはまた閉じた。俺はだらんと腕を下ろして、仁王先輩を見ているだけだ。

「赤也は、俺のそばにおるだけでええんじゃ」

どういう意味かと問う腕は、届く前につかまえられた。先輩の低い体温か、どういうわけか俺を包み込んでいた。

「好きとか言われるんはどうも嫌じゃ。言葉より、体で示してくれんか」

仁王先輩の腕が、体が、声が震えている。あのコート上の詐欺師が。からかわれているんだ、ろうか。

「仁王、先輩は、俺のことどう思ってるッスか」
「…言わなアカンのか」
「先輩の好きは、わかりにくいですから」

抱き締められたまま手持ち無沙汰な手で、先輩の制服を握った。シワができそうな暗いに強く。

「一度しか言わんぞ」

授業開始のベルが遠く聞こえた。仁王先輩の静かな声は、それよりもはっきりと俺の耳に届いた。

「愛しとう」

それは反則だろうと、文句を言うより早く涙が出た。抱き締めてくれる腕の力が、いっそう強くなった。







なんで仁赤になったんだろう……?

2011/5/27
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