高校生活一日目。知った顔の見当たらないクラス。どうせ他のクラスの同中のやつらと帰るんだと思っていたのに、俺の予想は外れた。

「廣野くん、いっしょに帰ろうよ」

 帰りのホームルームを終えると、前の席から振り向いて、人懐こく声をかけてきた。
 俺はちょっとびっくりしたけれど、特に断る理由はなかった。間を置いた後に頷いた。

 日向遥という名前が似合ってると思った。
 具体的に何故と聞かれたら困るけれど、何て言うか、雰囲気だ。

「廣野くんは帰り電車?」
「や、徒歩。明日からチャリ通にする予定だけど」
「マジ? 俺といっしょ!」

 にこっと笑う、日向遥くんのこのやわらかい雰囲気。そうだ、まるでこの春の陽気だ。
 てか、いっしょ!て。女子みてえだなー。

「家どこら辺?」
「西区。こないだ出来たスーパーの近く。日向くんは?」
「俺はねえ、南区」
「南? だったら電車のがいいんじゃねえの? 何で徒歩? あ、チャリだっけ」

 下校する生徒たちの波に紛れて、二人で校門を出た。桜並木の通学路をゆるい速度で歩く。
 しかしこうして改めて並んでみると、日向遥くんはでかい。ガタイがいいっていうんじゃなくて、全体的にすらっとしているのだ。モデル体型っていうんだろうか。
 くっそ、俺も身長伸びねぇかなー。モデル体型じゃなくていいから。

「ひなたぼっこ好きなの、俺」

 思わず、えっ?と聞き返した。視線を上げた先で、日向遥くんが同じように、えっ?って顔で俺を見ていた。

「あ、悪い。今聞いてなかった。なに? ひなたぼっこ?」
「ちょっ、そっちが聞いたんじゃん! 何で徒歩なのって!」

 怒った声をあげる日向遥くん。うわ、顔すごい真っ赤。

「……あ、ひなたぼっこが好きだから徒歩なんだね。なるほど、わかった。理解した」
「わかったなら言わなくていいよ! 心にしまっといてよ! なんか俺痛いこと言ったみたいで恥ずかしいじゃん!」
「日向くんだけにひなたぼっこが好きなんだね」
「ぶはっ!」
「なんで噴いた!?」
「ウマイこと言わないでよ! やべーツボった! 廣野くんおもしろいね!」
「気づいてなかったのかよ!? 自分の名前だろうがよ、ツボんな! 俺が寒いこと言ったみたいで恥ずかしいわ!」
「寒くないよ! ウマイよ!」
「いや寒いよ!」

 通学路のど真ん中で爆笑する日向遥くんは、周囲の生徒たちからの不審な視線などお構い無しである。
 あれ、日向遥くん、こんなやつなの?
 一見モデルみたいなのに、喋ったらちょっと残念だね。なんて失礼なことを思っている俺は、だけど、だけど。
 どうしてだ。無邪気に笑う姿に目が離せないなんて。

「廣野くん、廣野くん」
「……おー、なんですか日向くん」
「ヒロって呼んでいい?」

 目の前で茶髪がゆれる。日向遥くんが小首を傾げたので、茶髪にのっかっていた何かが落ちた。ひらひら落ちていく、薄いピンク色。あ、花びら。

「じゃあ俺は、おまえのことハルって呼ぼうかな」

 そう言うと、ハルが笑った。春の日を浴びてあんまりやわらかく笑うので、俺は、ああ、と思った。

 ああ、困ったことになった。高校生活しょっぱなから。どうしよう。でも、違うかも。まだわからないし。明日になったら、やっぱり勘違いだった、なんて思ってるかもしれないし。うん、そうだ。そうかもしれない。

「ヒロ? どしたの?」
「いや、べつに何でも……」
「あ、もしかして腹へった? そしたらさ、なんか食いに行こうよ」
「あー、サイゼ? マック?」
「俺ラーメン食いたい」
「お、いいっすね」

 とりあえず今は、何も知らないふりして、桜並木の通学路をいっしょに歩く。


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