「秋吉さん……犬は好きですか」
「犬? うん、好きだよ」
「チワワとかそういう小型犬からレトリバーみたいな大型犬も含めて、全部っすよ」
「え、うん、好き。俺動物なんでも好きだよ。虫以外なら」

 今俺の脳内で、家のマイケル(犬)とジャスミン(犬)と笑顔でたわむれる秋吉さん(犬……じゃねーや)の姿が容易に想像できてしまった。
 常々犬っぽい人だなと思っていたけれど、もう俺の想像の時点でまるでCMかってくらいには絵になりすぎている。ちくしょおおお。
 ダメだ、まだ折れるな俺。この人の欠点を意地でも見つけたい。
 なんだか当初の目的からズレ出している気がしないでもないが、もう意地である。いくら良い人だからって、この人に簡単に美香ちゃんはやらん。シスコンなめんな。

「秋吉さんって大学生なんですよね? 大学はどこっすか?」
「言ってなかったっけ。K大だよ」
「は? K大って、そこの?」
「そこの」
「……国立大の?」
「うん、それそれ」
「……」
「美央くんどしたの? 顔こわっ」

 今なにかパキッと音がした気がした。心が折れるような音が。

「……ちなみに」
「うん?」
「学部は?」
「い、医学部ですけど……?」
「え、秋吉さん、将来医者になりたいんですか?」
「それもあるけど、実家が診療所だから一応継がなきゃならなくて」
「は? し、診療所? 実家が?」
「う、うん」

 は? 顔もべつに悪くなくて、性格も良くて、犬も好きで、国立大の医学部に通えるくらいには頭も良くて、実家が診療所で、それで、将来は医者……?

「なんなんすかそのスペック……」
「ちょ、美央くんほんとどしたの? 俺なんか悪いこと言った?」
「やだもう……秋吉さんやだ……秋吉さんのばか……もう俺、美香ちゃんにやめとけなんて言えなくなったじゃん……」
「え、美香ちゃん? やっぱ美央くん、美香ちゃんと喧嘩したの?」
「喧嘩してない!」
「えっ」
「秋吉さんのバカ!」
「えっ。サーセン……」

 もうやだ、完全に心が折れた。勝てる気がしない。
 テーブルに突っ伏したら、じわっと目頭が熱くなってきた。

「秋吉さん……」
「は、はい?」
「美香ちゃんを泣かしたら、秋吉さんのこと殺害するから……」
「ごめん何の話!?」

 家に帰ったら美香ちゃんにヨシヨシしてもらおう。それから、ああ、考えただけで既に視界が滲んできたけど。
 がんばって、と言おう。



13.12.1


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