『海未ちゃんも、慧太のこと……だと思うんだけどなあ……』
独り言のように秋吉がぼやく。
『あのふたりってさ、なんとなく似てるんだけど、いまいちすれ違ってる気がして傍から見てるともどかしいっつうか……』
「…………」
今年の八月、夏祭りのことを思い出した。
俺はあのとき、慧太に、「慧太が海未ちゃんといっしょにいることに意味があったらいいと思ってる」と告げたのだ。
正直返答に期待はしていなかった。でも、考え込むようにメンソールの香る煙を吐きながら、慧太は答えた。
――意味とか、わかんねえよ。
――でも、大事だよ。
本音を吐くのも嘘をつくのも下手な友だちのあのときの言葉を、俺は、紫煙に紛れながらもかすかに吐き出した、慧太のほんとうの言葉だと思っている。
だから。
「……殴っといてこんなこと言うのもおかしいかもしれないけど、」
濃い白の煙が夜の冷たい空気にとけていく。
「ふたりのことだから、ふたりが決めていくよ」
苛立ちは、もうない。俺たちがこんなふうに話し合ったって何したって、結局はふたりのことなのだから。そう割り切れる程度には冷静さを取り戻していた。殴ったことでいくらかすっきりしたのかもしれない。慧太には悪いけど。
秋吉は、端切れ悪そうにしばらく唸っていたけれど、やがて、そうだね、と諦めたように頷いた。
『ただの友だちだしね、俺ら』
「話くらいなら聞いてあげられるんだけどね。話してくれれば」
『ツンデレだからなー』
そんなふうに話し合いは落ちついて、いつも通りの調子で俺たちは笑いあった。秋吉から「じゃ、これから電車乗るから」という言葉を最後に、通話を終えた。
改めてケータイの時刻表示に目をやってみれば、23:52、明日になる少し手前だった。
煙草もまだ残っているし、カノジョにかけようかなと空気のように思い、そのままケータイを操作する。
発信履歴からカノジョの番号を引っ張り出そうとしたときだった。
「……」
操作中の画面が、【メール受信中】に切り替わる。
画面を少し見つめたあと、届いたばかりのメールを開いた。
From:来栖 慧太
Sub:無題
ごめん。
あと、ありがとう。 煙の先で光る画面。言葉足らずな彼らしい文面を見つめながら、思わずつぶやいた。
「……デレた」
独白とともに紫煙がゆらめき、灰がほろりとこぼれた。
すっかり冷えてしまった指先を緩慢に動かす。ゆっくりと、メールの返信を綴った。
To:来栖 慧太
Sub:Re:
俺も、ごめん。
そういえば、本当は今日聞きたかったんだけど。
店で流してる曲、慧太知ってる?
CD持ってたら貸して。
次に会うとき。 送信完了の画面を確認して、充電が切れそうになったケータイとフィルターに近づいた煙草を仕舞った。
空を見上げる。狭い空には相変わらず星がひとつだけ光っていた。
どんな顔をしてメールを打ったのだろう。
たぶん、怒っているような、拗ねた子どものような顔をしていたんだろうな。
そんな想像をして、小さく笑った。
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