バイトを終える頃には、空はもうだいぶ明るくなっていた。日に日に朝が早くなっている気がする。まだ肌寒いけど、湿気を帯びた風が頬を撫でる。夏が近い。

 早朝六時。三階建てアパートの二階。
 いつものように部屋の鍵を開けて、中に入る。カーテンが閉められた薄暗い、ひっそりとした室内。
 夜勤から帰宅したらすぐにシャワーを浴びて、世間がこれから出勤という時間にベッドに入り、毛布にもぐる。こんな夜行性のような生活も、数年続けてしまえばもはや体質だ。おかげで朝は苦手だけど。
 ローテーブルの上のあるものに気がついた。昨日スーパーで買ってきたばかりの安いツナ缶だった。中身は空っぽ。
 どうりで、さっきからなんか生臭せーなと思った。食いっぱなしで放置とか。食ったら缶の中洗ってちゃんと捨てろって、いつも言ってんだろ。

「……アホ猫」

 この六帖の洋室には、大人二人掛けほどの大きさの白いソファがある。
 規則的な寝息が聞こえている。ソファの上は、うちの猫の寝床で、定位置である。
 うちに来てすぐに与えてやった専用の毛布にくるまって、眠る猫がそこにいる。軽く屈んで、その寝顔を覗き込んだ。

「……」

 デコピンでも食らわせてやるつもりだったけれど、警戒心ゼロの寝顔を見たら、なんだかその気が失せた。
 ……いいか。起きたら起きたでかまうのめんどいし。夜勤明けで眠いし。
 さっさとシャワー浴びて、俺も寝よう。

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