慧太とは、二年生に進級してはじめてクラスメイトになって、今では毎日のようにつるんでいるけれど、よくわからない。口を開けばこっちが腹立つことしか言わないやつなのに、嫌いになれない。憎めないというか、なんというか。

「あ、思い出した」

 そんな声を上げれば、慧太も唯太も俺に視線を向けた。唯太についてはその目がかすかに笑っていて、たしかにちょっとわざとらしかったかも、と俺は少しばかり前言を後悔した。
 気を取り直して続ける。

「十一月なんもないって言ったけど、ひとつあったわ。いま思い出した。ね、唯太」
「うん。俺も、いま偶然思い出したところ」

 込み上げる笑いを堪えながらのやりとりは大根そのものだ。慧太だけが一人、わけがわからないというような訝しい顔をしている。
 ああもうだめだ、笑っちゃう!

「慧太、誕生日おめでとー!」
「おめでとう。十七歳」

 俺は鞄から取り出した小さな袋を慧太へ差し出した。慧太は、ラッピングが施されたその袋を前に、ただただ目をまるくする。

「……は? え、なに? え?」
「だははは! 慧太、めっちゃまぬけ面!」
「……」

 慧太は俺がぺろっと発してしまった失言さえ耳に届いていないようだった。慧太のここまで虚を衝かれたような顔なんてはじめて見た。おかしいったらない。
 ずいぶん間を置いてから、慧太が袋を受け取った。鈍い動作で袋から小箱を、小箱の包装を開ける様子を、俺は唯太とともにうずうずしながら見守っていた。そうして最後、小箱の蓋がようやく開けられた。

「……」
「どーすか! 予想を超えたでしょ!? めちゃくちゃ立派なプレゼントでしょ!」
「俺と秋吉の割り勘だけどね」

 十一月二日。今日は慧太の誕生日である。
 用意した誕生日プレゼントは、唯太と二人で選んで割り勘で購入した、ブレスレットだ。黒い合皮のベルトにシルバーが埋め込まれたシンプルなもの。慧太が好きそうだと、唯太と二人して直感的に決めたものだった。
 思いのほか値が張ったので軽く白目をむいたことはさておき、まあ俺らから慧太へのはじめての誕生日プレゼントだし、友だちとして、たまには奮発してやらねばと思った次第だ。

「俺らだと思って大事に使ってよね。なくしたら金返してね。あっ、あと俺の誕生日は五月で、唯太は七月だから。来年期待してるね!」
「……」
「って、慧太聞いてんの?」

 ブレスレットに目を落としたまますっかり黙り込んでしまった慧太の顔を、俺はテーブルから身を乗り出して覗き込んだ。
 目が合う。でもすぐに、逸らされた。

「……あれ?」
「……」
「ちょ、慧太クン?」
「……」
「ねえ、もしや、照れてる?」

 そっぽを向いて断固としてこちらを見ない慧太は、怒ったような顔をしていた。でも、なんだか、そこはかとなく頬が赤くなっている気がするんですけど。
 驚かせたかったのはもちろんだけど、しかしまさかそんな反応されるとは夢にも思わなかった。や、やばい、笑ってしまう。

「ははっ」

 しかし俺が笑い出すよりも速かったのは、なんと唯太だった。
 わ、わあああ、無表情に定評のある唯太が声上げて笑うなんて千年に一度ぐらいの激レアものだ。慧太といい唯太といい、一体何がどうしてこうなった。何はともあれ、いい加減俺だって思いっきり笑ってしまいたい。

「……おまえら、笑ってんじゃねえよ」
「誰のせいだと思ってんの!? ちょ、腹が痛い!」
「サプライズ成功だなあ。はい慧太、こっち向いて」
「撮んな!」
「は、腹痛えええ! 慧太が! 慧太がかわいい! 俺ちょっとキュンとした!」
「秋吉死ね! 百回死ね!」

 他のお客様のご迷惑なんてあったもんじゃない。俺の爆笑に、慧太の怒号。唯太からは「ピロリーン♪」なんて気の抜けるケータイのシャッター音。
 このあとのことといえば、いよいよブチギレた慧太に頭ぶん殴られた俺は、それでまた慧太と喧嘩になって、結果として唯太に喧嘩両成敗で二人して頭ぶん殴られるというオチだった。
 つうか誕生日を祝ってサプライズでプレゼントまで用意して、なんで二発も頭ぶん殴られなきゃならないの。
 でもそれで慧太を嫌いになんて、やっぱりならなくて。むしろ彼の新たな一面を発見してしまって満足だなんて、ほんとうに自分がよくわからない。

「慧太ってツンデレだよね」
「ぶはっ」

 ファーストフード店を出て、慧太と別れて、唯太とチャリ二ケツの帰り道。
 ペダルを漕ぎながらボソッとつぶいた唯太の言葉に、俺はまたしても噴き出して、笑った。

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