高二、十一月。

「慧太、英語何点だった?」
「97」
「うわー、英語で慧太に勝てるはずなかったわー。ごめんなさい」
「おお、慧太に教わったから英語伸びた。ありがとう」
「唯太何点だったの?」
「80点」
「マジで! 英語苦手な唯太の過去最高じゃない?」
「歴代最高点だ」
「てか秋吉、英語負けたらシェイク奢るっつー話」
「な、なんの話?」

 しらばっくれてみるけど、悪あがきだってわかってます。俺はコーヒーでいいよ、なんて唯太の便乗は無視する。だって俺は英語92点だもん。勝ってるもん。
 返却されたテストの話題もそこそこに、俺たちの歩みは駅前のファーストフード店へ。
 しらばっくれてはみたけど、結局俺が慧太にシェイクを奢ってあげる流れは変わらず仕舞いであった。しゃーない。言い出しっぺは俺だ。諦めて財布を探りつつ、何味ー? と慧太に訊けば、チョコと即答した声は慧太にしてはめずらしく弾んでいた。うんうん、人の金で飲むシェイクっておいしいよね。

「でも総合点は俺のが勝ってるもんね!」
「チョコうま」
「コーヒーが五臓六腑に染み渡るようだ」
「ねえちょっと、君たち無視やめて」

 店内はガヤガヤと騒がしい。見渡す限り、席のほとんどが近隣の高校生たちで埋め尽くされている。俺たち然り。
 運よく隅の四人席が空いていたので、俺たちはそこに腰を下ろした。ソファに足を組んで座りながら、慧太が気分よさげにチョコシェイクを飲む。その隣には、爺臭くホットコーヒーを啜る唯太。そして二人の向かい側の椅子に俺。余った席にはテスト期間を終えて中身の軽くなった鞄を置く。

「テスト終わったし、もうすぐ冬休みだね。わーい」
「まだだろ。一ヶ月以上先だろ」
「一ヶ月なんて矢の如しだよ」
「唯太爺臭いわ、言い方が〜」

 十一月の初旬だった。
 慧太のおっしゃる通り、冬休みなんてまだ一ヶ月以上先である。だけどそんなのきっとあっという間だ。矢の如しだ。あっ、俺も爺臭い言い方しちゃった。
 このあいだ高校生になったと思ったら、もう二年生の終わりに差しかかっている。早過ぎる。

「来年三年かあ。ああ〜受験やだ〜」
「おまえさっきから一人で忙しいな。喜んだり嘆いたり」
「表情豊かなんですう、慧太と違って。てか十一月ってさあ、体育祭も文化祭も修旅も終わった後で、せつなさやばいよね」
「十一月って行事なさすぎてつらいな」
「唯太べつに積極的に参加しないじゃん」
「ぼくは雰囲気を楽しんでるんだよ」
「なんで唯太っていちいち達観してんだよ。父兄かよ」
「ぶっ」

 慧太が真顔でツッコミを入れるので、俺はつい飲んでいたオレンジジュースを噴き出してしまった。被害はごく小規模だったけれど、俺の正面にいる慧太には危うくかかりそうになった。
 あ、ごめん、と謝るより速く、テーブルの下で臑を蹴られた。

「いってぇ! わざとじゃないのに! てか臑とか超痛いんですけど!」
「わざとだったら臑どころじゃ済まさねえし」
「慧太が真顔でツッコミ入れんのが悪いんじゃん! そういうのはもっと和やかな感じで笑って言えっつーの!」
「噴き出すほうが悪いし、汚い」
「バカ! 慧太のバーカ! 潔癖バカ!」
「秋吉うざい。顔面にファブリーズかけんぞ」
「喧嘩しないでくださいよ、他のお客様のご迷惑ですよ」

 冷静かつ棒読みな注意で、俺も慧太も押し黙る。唯太、ほんとうに父兄過ぎる……。
 微妙な沈黙のなか、慧太に視線をやる。どこを見るでもなくチョコシェイクをストローから吸う慧太の表情は拗ねた子どものようで、思わず笑う。

「……なに」
「あはは、べっつに〜」
「秋吉キモ」

 息をするようにごく自然に出てきた毒舌に、軽く青筋。
 無愛想だし口悪いし、学年成績トップの俺が英語だけはいつも勝てないし、おまえに女子にもモテるのだから、慧太って腹立つ要素しかない。

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