「なあ、おまえ何歳なの?」

 さっきの薬瓶に目を落としながら、けーたが訊ねてきた。

「何歳に見える?」
「そういうのいいから」
「……十八」
「マジで未成年かよ」
「もうすぐ十九だけど」
「どっちにしろ未成年だろ」

 畳み掛けるように言われて、あたしはちょっとむっとする。ちぇっ、と思う。
 そういうけーただって、制服着たらぜったい高校生に見えるよ。

「けーたは何歳なの?」
「二十一」

 興味というより反抗から訊ねてみた。無視されるかなと思ったのに、案外あっさりと返ってきた。
 二十一歳。特に意外には思わなかった。それくらいかな、と思っていた。というか、人のこと未成年未成年言うけど三つしか変わんないんじゃん。
 名前以外で、あたしたちははじめてお互いのことを知ったわけだけど、ずいぶんあっさりしたものだった。そんなもんか、と安堵のような気持ちをおぼえるのは、なぜだろう。

「十五歳以上は、三錠」

 あたしの掌に赤と白のカプセルが三つ、ころころと転がった。……カプセル嫌い。粉薬よりはずっとマシだけど。
 渡されたコップの水で、三錠を一気に飲み干した。

「おまえ、今日は俺んとこで寝れば?」

 コップを返すと、けーたがそう言った。
 その言葉の意味をすぐには理解できなかったけれど、ややあって、あたしは首を横に振った。

「ここでいい」

 ずっとこのソファで寝起きしているのに、いまさら寝たことのない他人のベッドでなんて、落ちつかないだろうし。

「あっそ。落ちても知らないけど」

 けーたがあたしの髪をくしゃっとなで、立ち上がった。

「けーた、どこいくの」

 あ。
 咄嗟に口をついて出た言葉に、自分で驚いた。こちらをふり返ったけーたも、めずらしく驚いた顔をしていた。
 情けない声だった。縋るような必死さが声ににじんでいて、笑いたくても笑えない。
 最悪だ。熱のせいだ。それに、けーたがいつもよりやさしいせいだ。勝手に熱を出したニートなんか、ほっといてくれたらよかったのに。
 ほっとかれるのかと、思ったのに。

「……なんか食いたいもんある?」

 戻ってきたけーたがまたあたしの前にしゃがんで、そんなふうに訊ねてくる。
 なにその声。なんでそんなふうにやさしい声で聞くの。
 その薄茶色の瞳に、あたしの情けない心がぜんぶぜんぶ見透かされているようで、泣きたくなる。

「……アイス」
「ガリガリ君でいい?」
「そうゆう系じゃなくて、バニラとかがいい。ハーゲンダッツでいいよ」
「ガリガリ君のソーダな」

 大きな手が、またあたしの髪をなでた。
 あたしの前から離れるとき、けーたはすぐ帰るから、と言った。

 玄関のドアが閉まる音を聞いた。
 頭が痛い。胸のずっと奥のほうが、痛い。熱のせいだ、ぜんぶぜんぶ。
 毛布にくるまって胎児のように体を縮こめる。視界がにじんでゆれる。目をつむると、熱いなにかが頬を伝って落ちていった。

 大丈夫。きっと明日になったら治ってる。
 きっとまた、いつも通りになる。


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