頭が、痛い。
 いつものようにソファの上で目を覚ますと、頭に鈍い痛みを感じた。毛布にくるまった体を起こすのさえひどく億劫だった。
 いま何時だろう。朝だろうか、昼だろうか。きっと外はいい天気なのだろう、カーテン越しの外の光がそれを主張せんばかりに部屋を薄明るくしている。
 カーテン開けなきゃ。それから、けーた起こして、いっしょに朝ごはん食べなきゃ……。
 鈍痛に襲われる頭でうろうろと考える。やらなきゃやらなきゃと思うのに、けれど体がだるくてしょうがない。

「うー……」

 さむい。夏なのに寒い。毛布ぐるぐる巻きで寝ているのに、悪寒がする。
 体を襲うこの異変に、覚えがないわけじゃない。だからこそ嫌な予感しかしない。
 そのとき、背後からドアの開く音が聞こえた。ドキッとして反射的に目を動かせば、寝癖のついた髪を掻きながら、けーたが寝室から出てきたところだった。
 けーたが部屋のカーテンを開けると、清々しさを通り越してもはや暴力的なほど、室内が明るくなった。太陽光にさらされながら、あたしは、なぜか息を殺して身を固くしながら、けーたの後ろ姿を見つめていた。すると、視線に気づいたのか、けーたがこっちをふり返った。
 目が合う。思わずひゅっと息が止まる。

「……起きてんの?」

 怪訝そうな声を投げかけられるけれど、あたしは答えずにさっと視線を逸らした。毛布でそれとなく顔を隠す。けーたがこのままあたしを無視して、キッチンにでも行ってくれることを願った。
 しかし、それは叶わなかった。
 足音が迷いなくこちらへ近づいてくる。けーたの気配がすぐそこにあるのがわかった。そして、あっという間に、毛布がはがされてしまう。それでも悪あがきのようにぎゅっと目をつむる。と、額に軽い痛み。バチッと、無駄にいい音がした。

「……」

 いたい、と言おうとした。
 でも、あの色素の薄い茶色の瞳がすぐそこであたしを見ていると思ったら、声が出なくなってしまった。息が詰まるようなのに、心臓だけが無駄に高鳴っている。
 と、デコピンされたばかりの額に、今度は少し乱暴に掌が置かれた。けーたの手、と思う。けーたの手は冷たくて気持ちいい。それとも、あたしが熱いから、冷たく感じるのかな。

「……熱あんの?」

 手が離れると、そう聞かれた。聞かれても困る。

「……わかんない」
「わかんないって、すげえ熱いんだけど」
「……ある、かも……」

 歯切れ悪く答える。完全に発熱していることなど身をもってわかりきっていたけど、あたしはそれがなんだか、バツが悪いような気持ちだった。
 けーたは、そんなあたしをしばらく黙って見つめて、そのあとひとつため息を吐いた。めんどうくさそうなそれに、あたしの肩がびくりとふるえる。
 目の前にしゃがんでいたけーたが立ち上がった。気だるそうな背中が、あたしの前から去っていく。

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