橙色の照明で、ピアスが光った。
 あの軟骨につけられたフープピアスはもう見慣れたものだけど、知り合って間もない頃はよく「それって痛くないの?」と聞いていた。そのたびに、うざったそうに「べつに」と返されたっけ。

「慧太さんのピアス、かっこいいですよね。あたしもそういうのやりたいんですけど、ビビりだからなあ。軟骨って、やっぱめちゃめちゃ痛いんですか?」
「べつに、個人差あるんじゃないですか」

 そうそう、あんな感じ。
 しかしこれは決して高校時代の情景などではなく、海辺のシャレオツダイニングバーnexusのカウンターでの会話である。
 友人の贔屓目なんてものははなから持ち合わせていない。とは言っても、店員が客に対してあの態度ってどうなの? しかも、かわいい女の子に対してあの無愛想ってどうなのよ。だめでしょ。

「あたしぃ、慧太さんが開けてくれるんなら、痛くてもぜったいヘーキなんだけどな」
「ぜったい失敗するから医者でやったほうがいいよ」
「え〜」

 だけど許されちゃうんだよな、慧太の場合は。ううん、まったくもって解せない。

「マユコちゃん強いな。よくあの無愛想にめげないよね」
「俺らも見習わなきゃね」
「そうね、ほんと見習わなきゃね〜」

 バーカウンターの向こう側にいる、制服である黒いワイシャツ姿の唯太のセリフに皮肉めいた調子で返す。
 ほんとほんと、見習いたいもんだよ。あの無愛想に向かっていく精神。俺が女だったらぜったい嫌だけどね、あんな男。

「マユコちゃんってば、ドエムなんだね」
「……秋吉、ぺろっとそういうこと言うの治さないと、今後カノジョできないよ」
「えっ、俺なんかへんなこと言った?」
「そういえば前の子と別れてどれくらい経つっけ?」
「やめて。ビールまずくなる」

 マユコちゃんが慧太にアピールを続けている一方で、反対側のカウンターではこんな男同士のしょっぱい会話をしているのだから、世知辛いったらない。
 ところで、俺の友人――来栖慧太に黄色い声をあげる女の子はああいった女の子が多い。
 積極的で、多少素っ気なくあしらわれてもめげないどころか、逆にエンジンかかっちゃうような……うん、ドエムっぽい感じの子。まあ性格はともかく、だいたい顔がかわいい子(ちょっと化粧濃いけど)ばっかりなのが、高校からの近しい間柄としては腹立たしい限りなのである。

「やっぱさあ、世の中結局顔なんだよ〜。飲み会で『あたしオタクっぽい人好きなんです〜』とか言いながら、結局女の子はみんな慧太みたいなオタクのオの字もないただのイケメンが好きなんだよお〜」
「秋吉も酒飲まなきゃイケメンだよ」
「棒読みで言われても……もう飲んでるし……」
「あと、俺今日も閉店までだから。泊めてもらうんなら慧太のとこにして。慧太は今日は上がり二時だから」
「ええー、俺このあと唯太んちでジブリ観ようと思ったのに〜」
「ごめんね。まあどっちにしろ俺んとこダメだから。いま部屋にカノジョいるから」
「ちくしょおおお! どいつもこいつもおおお! じゃあ、俺の会計は慧太につけといて!」
「俺が怒られる」
「唯太のがタッパあるし、強いから大丈夫だって」
「タッパあっても中身は草食だから、ぼく。シマウマだから」
「学生金なしなのに……」
「帰って勉強しなよ。フリーターは忙しいんだよ」

 唯太が冷たい……。
 この鈴木唯太と俺は、なんと小学校からの幼なじみである。なのに、この仕打ちはあんまりじゃないか。大学生が酒場に来る理由なんて万国共通「現実逃避」だっつーの。レポート全然やってないっつーの。
 カウンターに突っ伏すと、頭がゆらりとゆらめいた。あーあ、酔っ払ってるかもしれない……。

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