blue18 | ナノ


 5月の終わりだった。北棟校舎3階の男子便所には、小さな窓から陽の光が射し込んでいた。
 誰からも忘れ去られたようなこの場所で、呼吸が詰まり、吐き出される音を聴いた。


「あはは、こんなとこで同じクラスのやつと鉢合わせるとは思わなかった」

 水の流れる音の後に、1番奥の個室から出てきたクラスメートは、たまたまその時この場所に居合わせた俺を見て、まるで日常会話の延長線のように笑った。
 何事もなさげな笑顔と、黒い制服を着た細い体と、それとは対照的な白い顔色は、何だか現実感を欠けていて、例えば天使でも悪魔でも、それか死神でも、そんなものがいたら、こんな感じなのだろうか、とか、そんな馬鹿な思考が過ってしまった。

 この日、来栖慶介とはじめて話した。
気まずさはあった。見てはいけないものを見てしまった気分だった。
 多少躊躇しながらも、大丈夫なのかと訊いたら、来栖は小さく笑って煙草をくわえた。そして、ライター貸して、なんて検討違いなことを言う。
 今まで上手いこと入れ違いになっていたらしい。来栖もよく人気のないこの場所を利用していたのだと言う。ただ、純粋に喫煙の為に利用していた俺とは少し違ったけれど。喫煙の為、吐き出す為、はたまたその両方。


「俺ね、読心術が使えるんだ」

 来栖は俺に、幼い子供の秘密事のような言葉を口にした。
どこまでも軽い笑顔で向けられたその言葉は、馬鹿らしいといくらでも冗談だと言ってしまえた。実際俺は笑っていたのだ。しかし、だけど、疑う気にはどうしてかなれなかった。

「松下優二郎くん。いい名前だね」

 変なやつだ。だけど、面白いやつだとも思った。




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