小説(刀剣) | ナノ
7.侵入



川辺から歩き出して数分。
一期一振と前田藤四郎が見付けたという本丸らしき屋敷に辿りついた。

そもそも何故彼等がこの荘厳な門構えの屋敷を本丸と判断したのか。それは偏にこの門の中から幽かにではあるが、審神者特有の“気”を感じ取ったからだ。
審神者というのは単なる霊能者ではない。幾星霜を渡り、刀剣に宿った魂に器を与えるには相応の霊力を要する。そしてその霊力は神気と親和性が高くなくてはならない。相性、というものだ。いくら霊力量が多くとも、神気との親和性が低ければ審神者にはなれない。
目の前の本丸には確かにそういった類の霊力が感じられた。審神者にはピンと来ないが、刀剣からすれば神気との親和性は相当高そうだという話だった。
ただ、気になるのはその霊力があまりにも微弱にしか感じられないことと、

「……随分、荒れていますね」

門には明らかに刀で付けられたと思しき傷が多数見受けられたこと。

「中に人間がいるか、怪しいものだな」
「ここからですら不浄の気配が感じられます」

魑魅魍魎の巣窟なのではないかと疑いたくなるほどの禍々しい空気が屋敷全体を覆い尽くしていたこと。
この三つが彼等に更なる緊張感を与えた。

「どういたしますか、主」
「嫌な驚きが待ち受けていそうだぜ」

長谷部も鶴丸も揃って油断なく門を見据えている。降り止まない冷たい雫が頬を濡らした。

「どちらにしろ、一時的な休息は必要です。入らせて頂きましょう」

言葉の後に、審神者は左手で門扉に触れた。荘厳な見た目から、厳重に閉ざされているだろうと思っていた。しかし、予想に反して何の抵抗もなく門は開いた。ギギィ……という古い木の軋む音が響く。驚いた審神者は仮面の下で目を見張ってから、すぐに佇まいを正して声を張り上げた。

「失礼いたします! 相模国の審神者です。どなかたかいらっしゃいませんか!」

凛とした声が突き抜けていく。が、中からは返答どころか何の物音もしなかった。シン、と水を打ったような空気が流れる。

「……行きましょうか」

元より返事を期待していたわけではなく、確認のためでしかない。審神者はそっと慎重に足を踏み入れた。

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