08

「…分かりました」

一体どうしてこんなことになっているのか、よく分からない。

それなりの期間付き合った彼氏に何度も浮気されて。もう耐えられなくて別れて。

だけど私はまだその彼が好きで仕方なくて、今更泣くことしかできなくて。

そしたらそこに、いきなり柳さんが入ってきた。

誰が今この展開を予想できただろうか。いや誰もできなかっただろう。…きっと、柳さん本人ですらも。

「やっぱ無理だって思ったら、すぐに言ってください」

私は単純だから。馬鹿だから。

やっぱり柳さんのことはそれなりに意識してしまうと思う。だから取り返しがつかなくなる前にきちんと彼の気持ちを示してほしい。

もう同じ間違いは繰り返したくない。嫌いなら嫌い。興味ないなら興味ない。ちゃんと区切りをつけられるように。

「…うーん」
「柳さん?」
「仕方ないとは思うけど、すごい予防線の張り方するね」
「嫌ならこんな面倒くさい女やめた方が良いですよ」
「あ、そういうとこ本当に面倒くさい」
「…なんなんですかじゃあもういいじゃないですか。帰ってください」
「嫌だ」

訳が分からない。

人をイライラさせる天才かこの人。眉根を寄せて彼を見ると、薄く微笑まれた。

「面倒くさいけど、いいんじゃない」
「何がいいんですか」
「簡単に陥落しちゃう城よりは、守りが堅い城のほうが攻め甲斐があるってもんでしょ」
「最初だけですよ。そんなの」
「まぁ、とりあえずねとりあえず」
「…」

やっぱり軽い。

大丈夫かなこの人。放っておけばすり抜けてどこかへ行ってしまいそうな、掴めない人。

昨日までは会うこともそうそうないくらい、私の人生に関わりのない人物だったのに。

「…地雷踏んだ気がする」
「俺が地雷かどうかはまだ分かんないよ」
「誠実で真面目な人がいいのにな…」
「不器用な男がいいよ。俺みたいな」
「…」
「少なくとも一度に二人の女なんて、手に負えないから安心して」

不器用、か。

「ま、これからよろしく」
「…」

まさか彼が。まさか自分が。

たった数分で、目まぐるしく変わる私の世界。

「よろしく、お願いします」

…でも、不思議と気分は悪くない。


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