04
* * *
「じゃあ、私先に帰るね」
「お疲れ」
「また明日ね」
「うん。また明日」
美沙が手を振りながら研究室を出ていく。私はと言えば、まだしばらく終わりそうにないレポートを目の前に溜息を吐くだけだ。
目が疲れた。モニターを長時間見続けるというのは、苦痛というか。肩も凝るし。
柳さんがさっきくれたチョコでも食べて一旦休むか…
「あれ」
手を伸ばしてみるが袋の中は空っぽだ。美沙がさっきばかばか食ってたからな。私3個くらいしか食べてないんですけど。
仕方ない。ちょっとコーヒーでも買って来よう。今何時だっけ。
時間を確認するために携帯を見ると、新着メッセージが一件来ていた。
誰かな。美沙かな。
「…」
しかしメッセージ欄を開いた瞬間、最悪の文字が頭を占める。
何故なら、画面に表示されたのは今一番見たくない男の名前だったからだ。
『里保、俺のせいでお前を傷つけてしまってごめん』
『何度も何度も同じ間違いを繰り返した俺が言うのは、今更かもしれないけど』
『でも俺は、里保のことがまだ好きだよ』
無表情でくるくると画面を操作していたが、そこまで読んで耐えられなくなった。
すぐにメッセージを削除する。
…気持ち悪い。
結局あの人は自分しか見えてない。
ごめんとか好きとか綺麗な言葉ばかりを並べ立てて、それで私が満足すると思っている。
だって、そうじゃなきゃこんなメール送ってくるもんか。
気持ち悪い気持ち悪い。
どの面下げてまだ私のことを好きだと言うの。どこまで私をみじめな気持ちにすれば気が済むの。
キモチワルイ。
「…っ」
分かってる。彼にこんな都合のいい考え方をさせているのは、他でもない私だ。
何度も何度も浮気されて、その度に彼の言葉を信じて許して。
『でも一番好きなのは里保だけだから』
――分かった信じる。
『俺がちゃんとしてないから…別れるって言われても、仕方ないと思う』
――そんなことしないよ。別れないよ。
本当は、そこに何一つ真実なんかなかったのを知っていたのに。
「っう、あ」
分かってる。一番気持ち悪いのは私の方だ。
こんなメールをもらって、こんなにコケにされて、それでもまだ。
それでもまだ、彼がくれる「好き」の言葉がこんなに嬉しいなんて。