01
「…」
「り、里保ちゃん何でこんな朝からうちに…?」
私は怒りに震えていた。こんなに腹が立ったのは初めてだった。
目の前には彼氏(だと思っていた)男と、半裸で眠っている見知らぬ女。
ご丁寧にベッドの周りに互いの衣服と思しきものが散乱していて、これはもう確定だと思う。
「あの、これは…そうじゃなくてね」
ぷるぷると文字通り震える私に、彼はもごもごと話しかけてくる。それが余計に怒りを助長させて、もう何を言っていいかすら分からなくなった。
このどす黒く汚い感情をぶちまける?
それとも笑って許せばいい?
何も言わないこちらの様子をうかがう彼。
おろおろとしてはいるものの、この人は見つかったという現状だけがまずいのであって、多分私の気持ちなんて考えていない。
…あぁ、もう、なんかいいや。
それに気づいた瞬間、全てがどうでも良くなってしまった。
どうして私、この人と付き合っているんだろう。純粋に疑問が湧いてくる。
「里保が思っているようなことは何一つないから、だから、」
「…馬鹿にすんな」
「え?」
「人をどこまでコケにしたら気が済むの」
子どもじゃあるまいし、こんな状況見せられて何でもありませんでしたーなんて言われて信じると思ってるわけ?
顔も見たくない。別れの言葉なんて誰が言ってやるものか。
無言で部屋を出て行こうとする私の腕を、彼が慌てて掴む。
「待って!あの俺酔ってて覚えてなくて」
「あっそ。記憶なくなるまで飲むなって私言ったよね?」
「いや仕方なかったんだって!飲まなきゃいけない雰囲気が…」
「前もこんなことあってさ。何で飲み会のたびに違う女連れ込むの?サルなの?そんなに性欲溜まってんの?」
「いや俺はそんなつもりじゃなくて、っていうかちゃんと彼女いるって言ってるし向こうが勝手に…」
「あのさ」
掴まれた手を振り払った。
触んないで。他の女の人に触れた後とか、吐き気がする。
「あんたの中に、私に対する謝罪の言葉はないんだ」
「え…」
「さっきから聞いてれば言い訳ばっかり。いい加減にしなよ」
「っごめん、ごめん里保!」
「もういいってば。指摘されないと分かんないような男なんて、こっちから願い下げだから」
今から私たちは他人ね、と呟き返事を聞かずに部屋を出る。
彼が追いかけてくることは、なかった。