06
「おはようございます…」
昨日はあれからよく眠れず、悶々としたまま朝を迎えてしまった。
家を出る前に鏡を見てきたがひどい顔で、逆になんかもう笑える。
どれだけ日下部くんのこと好きなの、私。彼の言葉ひとつでこんなにも落ち込むなんて、馬鹿みたい。
「委員長寝不足ですか?」
「勉強のしすぎでよー」
そうだったらどんなにいいか。勉強ならこんな風に悩むこともないのに。
「ふふ…そうですね…」
うわ気持ち悪い声。自分にドン引きしながら校門に向かう。
日下部くんはいつも遅刻ギリギリに来るから、まだ20分ほど時間がある。
会いたい、けど会いたくない。そんな葛藤が心の中で渦巻く。
やってくる生徒たちの服装チェックをしながら、頭の中はやっぱり日下部くんのことでいっぱいだ。
「委員長、昨日の日下部の反省文どうするんですか。まだ終わってないって言ってたでしょう」
「ああ…うん。ちゃんと書かせます」
田辺くんが話しかけてきたが、つい声が冷たくなってしまった。くそ、元はと言えばこいつのせいで…!
「…日下部のこと、考えてるでしょう」
「えっ」
「やっぱり、付き合ってるんですよね」
「違います。付き合ってなんか…」
何なんだ田辺。もう呼び捨てでいいよ田辺。傷を抉るな。
「俺の方が委員長のこと好きなんですけど」
「は?」
「あんなチャラチャラした男のどこが…」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待って」
混乱するからやめて。それって今ここでしなきゃいけない話なの。っていうか私みたいな田舎くさいおさげ眼鏡に告白とか、本気?
「わ、私は」
「…」
「日下部くんと付き合ってるとかじゃなくて」
そう。きっと好きなのは私だけで、彼はそんな私に一時の興味だけで付き合っていてくれるだけ。
「私が勝手に日下部くんのことを好きなだけ、です」
本当は心のどこかで気づいていた。だってそうじゃないと、わざわざ交際を秘密にしてくれなんて言わない。
でも、それでも私は日下部くんが…
「ってことだから、ゆりえのことは諦めてくれない?」
「え、は…!?ぐえ…っ」
後ろから首に手をかけて、思いっきり引き寄せられた。
「はは、変な声」
耳に響くのは私の大好きな人の声。
「日下部く…えええええ!?」
「うるせえ」
「だってその髪…」
「似合う?」
振り返ると視界に入るのはいつものオレンジ頭…ではなく、不自然なくらい黒い髪の毛の日下部くんだった。