03
「委員長、突然すみませんがちょっと聞きたいことが…」
ガラリとドアが開いた。同じ風紀委員の田辺くんがそこに立っている。
「…」
「…」
固まる私と田辺くん。
無理もない。机越しに顔を近づけ合う男女の姿。どこからどう見てもいちゃついているようにしか思えない。
「誰だお前。入るときはノックぐらいしろや」
ひいいいい。日下部くんまず私のネクタイを掴んでいる手を離そうか!苦しい!
「え…、委員長、え…?」
「たたたたたたたた田辺くん何かしら?」
とりあえず、何事もなく!あたかも彼が見ている光景はなかったものとして扱おう。
「ちょっと次の委員会で出すプリントのことで用があって…先生に委員長がここにいるって聞いたものですから」
「ああ、それなら…」
「何してたんですか」
「え」
駄目だった。田辺くんは訝しげな目線でこちらを見つめる。
「何って、それは」
「今朝、日下部に反省文書かせるって言ってましたよね」
「い、言いました」
「全然そんな風に見えないんですけど」
そんなぐいぐい突っ込んでくることないじゃないか。だらだらと冷や汗が背中を伝う。
どうしよう。日下部くんと私が付き合っていることは秘密で、誰にもばれてはいけないのに。
「これは…そう、目にゴミが入っただけです」
「はぁ?」
「痛くて痛くてたまらなかったから、日下部くんに見てもらってて…ねぇ、日下部くんそうでしょう?」
日下部くんはようやく私のネクタイを離し、興味なさそうにそうだなと呟く。良かった空気読んでくれた。
「…本当ですか?」
「本当もなにも、事実なんだから。私と彼の間に他に何があるって言うの」
「いや今のキスしているように見えたもので」
当たってるううう!だけど動揺を悟られないように、眼鏡をかけ直す。
「勘違いにもほどがあります、田辺くん。私と日下部くんがどんな関係かは、貴方が一番よく知ってるはずよ」
毎朝の風紀チェックでね。私が日下部くんに必要以上に注意するのは、仲が悪いところを周りにアピールして付き合いを隠すためでもあるんだけど。
「…」
まだ完全には納得がいってなさそうではあるが、一応田辺くんはそれ以上追及してこなかった。良かった。
ほっと息をついたところで、今度は日下部くんが呟く。
「…帰る」
「え、日下部くんまだ反省文終わってな…」
「うるせえ」
「っ」
ガン、と机を蹴ってドアの方に歩いて行く彼。怖いよ!どうしてそんな風に私を睨むの!
「あの、日下部く…」
「触んな」
追いかけた私の手は、簡単に振り払われてしまった。