02
彼女の家庭教師を始めたのは、3か月ほど前のこと。
母の知り合いの子、という何ともありがちなつながりで紹介されたあきらちゃんは、近所の進学校に通っていて。
もともと英語が苦手な彼女と、ある大学の英文科に通う私。ちょうどバイトを探していたこともあって、二つ返事で申し出を受けた。
先生って呼ばれるのが何だかくすぐったくて、でも嬉しくて。あきらちゃんがテストでいい点数をとるたびに自分まで誇らしい気持ちになった。引き受けて良かったなと心から思えた。
なのに、それなのに。
「先生、もしかして女の子同士とか気にするほう?」
「っえ」
「だから素直になってくんないのかな?」
「ちが、ちがうよあきらちゃん!私は…」
確かに私は女だし、あきらちゃんは女子高生だ。でも別に同性で行為をすることを否定するわけではない。そういう性癖の人がいることも知っている。
違う。これは同性同士だからとか異性じゃないといけないとかの問題ではない。それ以前の話だ。
「私は、あきらちゃんのこと軽蔑したくない…」
「…」
この単語先生が教えてくれたよね。
テストで同じところ聞かれたから、答えられたよ。
そう言いながら、にこにこと嬉しそうにする彼女が好きで。
こんな、こんなあきらちゃんを私は知らない。知りたくなかった。
「ひゃ、ひゃくてんとったのはうれしい…けど…っでも、違、う。何でもするって、そんなつもりじゃ…」
本格的にしゃくりあげて泣き始めた私。言葉が詰まって出てこない。その代わりに涙が溢れてきた。
せんせい、泣かないで。
優しい声をかけてくれていると思いきや、あきらちゃんは体を前に倒してちゅっと目尻にキスをする。
やめなさいって言ったのに。こちらの声は彼女にはどうしたって届かないらしい。