「ひっ」
「…」
「うう」
「…」
「あっ、やだ」
「…うるさい。集中できない」

キイチくんが横で毛布にくるまる私を睨んできた。

だって仕方ないじゃん!私はこんな映画見たくなかったのに、キイチくんが借りてくるから!

目の前で繰り広げられるスプラッタホラー。どうしてこの人こんな平然として見てられるの…怖いよ…。

「別に一緒に見る必要なくない?何か違うことしてれば。うるさいし」

その上そんなひどいことを言う。違うことしてればって。リビングのテレビで鑑賞されてたら嫌でも目に入っちゃうんですけど。

ムッとして返事をしないままソファから立ち上がる。

ひどい。キイチくんのあほ。ばか。

会社の同僚たちは皆口をそろえて、佐城くんってイケメンだし優しいし本当完璧よねなんて言うが、それは彼の外面に騙されているだけだ。

イケメンなのは認める。でも全っっっっ然優しくなんかない。

もういい。部屋に閉じこもっていよう。毛布を抱えて歩き出そうとしたとき、彼の手がそれを掴んだ。

「なに、離してよ」
「どこ行くの」
「部屋」
「なんで」
「キイチくんが何か違うことしてればって言ったんじゃん」
「座って」
「はい?」
「いいからここ、座って」

ぐいぐいと力いっぱい毛布を引っ張られて、仕方なくソファに腰を下ろす。何なの。意味が分からない。

「…ってちょっと!」

何か用事でもあったのかと暫くそのまま座っていたら、なんと彼はそれ以上何も言うことなく再び映画を見始めたのである。

目に映る残酷なシーンに、思わず画面から目を逸らした。

「なんなの!?嫌がらせ!?怒るよ!?」
「もーユキほんとうるさい」
「はぁ!?」
「静かにして」
「誰のせいだと思ってんの!?」

悔しくて地団太を踏む私。しかしスリッパを履いているのでパスパスとした気の抜ける音しか鳴らない。

キイチくんなんて、この映画の人たちみたいにぐっしゃぐしゃにされればいい!もう知らん!

「ふ」

ちょっと!笑いやがりましたよこの人!

「いい加減に…」

え。

開きかけた口を、彼の温度の低い唇が塞いだ。

「…馬鹿面」
「なっ、なっ、なんで急に…」

そりゃ馬鹿面にもなるわ!火がついたように熱くなる全身。

映画見てたんじゃなかったの!

「別にこんな映画なんて興味ない。ただユキの怖がる顔が見たかっただけ」
「あ、悪趣味な!」
「悪趣味で結構」
「ちょっと!」

ぐっと肩を押され、倒れこむ身体。パジャマの裾から大きな手が侵入してくる。

「キイチくん!なにすんの!」
「もう黙って」

必死に抵抗する私に、キイチくんは悪そうな笑みを零した。

「映画なんて頭に入らなくなるほど、溶かしてあげる」

…その後本当に彼の言葉通りどろどろに溶かされてしまったことは、言うまでもない。

甘い悪戯


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -