私もう子供じゃない。そう言い続けてどれくらいの月日が経っただろう。

「俺から見たら子供だよ、君は」
「もうすぐ二十歳だし…」
「ほら、そういうとこ」

彼はふっと笑って煙草を取り出した。

長い足を組んで紫煙を燻らせる姿は、それだけで映画のワンシーンのように絵になる。

くそ。悔しい。いつもいつもいつもこうだ。

そりゃ私がいくら年を重ねても、同じように彼も年をとっていくわけだからその差が埋まることはないと分かっているけれど。

でも、近づきたい、距離を埋めたいと思うのは年齢だけのせいじゃないってこと、きちんと理解してほしい。

「子供じゃないけど、大人でもないもん」
「はは、それは良い言い訳だね」
「真面目に聞いてよ」
「聞いてるよ」

嘘。軽く受け流してるだけじゃない。こっちがどんなにもどかしい思いをしているか、彼は知らないんだ。

すっと立ち上がって彼の腰掛けるソファに移動する。そのまま煙草を持っている腕にもたれかかった。

「こら」
「…年って、そんなに大事なの?」
「少なくとも、俺の感じている時間と君の感じている時間は違うと思う」
「つまんない」

私は彼が好きだ。陳腐に聞こえるかもしれないが、愛している。

その気持ちは勿論伝えているし、彼も私のことを多少の愛情をもっているからこそ、こうして傍に置いてくれているのだと思う。

でも、それだけじゃ足りない。私が自分のことを子供として見て欲しくない理由はそこにある。

「私が子供だから、なんにもしてくれないの?」
「…してほしい?」
「うん」
「そうだな…今はまだ無理かな」

ちらり。彼が目線をこちらから背ける。

ずるいよ。そんな風に逃げるのが大人なの。

「ケチ。堅物」
「ひどいな」
「帰る」
「あと10秒待って」
「え」

ぐんっと腕を引っ張られる。ソファに倒れこむ身体。後頭部が痛い。

「いたたた、何…」
「誕生日おめでとう」
「!」

その上に馬乗りになった彼に、突然口付けられた。

「ん、んん…!?」

今まで何度かされたことのある、フレンチなキスとは全く違う。角度を変えて何度も何度も重なる唇。

あまつさえほんのりと煙草の匂いのする舌が入り込んできて、息をするのさえ苦しい。

ドンドンと彼の胸を叩いて訴えかければ、濡れた音とともにようやく唇が解放された。

「は、ぁ…っ」

なに。なに今の。頭がぼーっとして、何も考えられない。

「へったくそだなぁ」
「きゅ、急にこんな…」
「君がしてって言ったんでしょう」
「私のこと、子供だって言ったくせに」
「流石に未成年にこんなことしたら駄目かなと」
「だからわざわざ日付変わるまで待ってたの?」
「そう。二十歳になったとしても、俺から見て君が子供なのは変わりないけれど…でも」

きっと真っ赤になってしまっているであろう私の顔。彼はそれを両手で包み、にこりと笑いながら言う。

「こんなことをしてしまうくらいには、愛しているよ」
「…やっぱり大人ってずるい」

私もう子供じゃない、なんてもう二度と言わないようにしよう。彼のような大人になるなんて、絶対に嫌だ。

心の中でそう堅く誓いながら、私はもう一度彼のキスを強請った。

(20140603~20140701 拍手お礼文)

ずるい大人


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