もうすぐ日が沈む。部屋の中は薄暗く、年中閉めっぱなしのカーテンは色褪せてしまっている。
 外から聞こえてくる子供の甲高い声が耳に障った。うるさいうるさいうるさい。こんな時間に遊ぶな。暗くなる前に帰れ。こっちは今起きたばかりなんだ。ちょっとは周りの迷惑とかも考えろ糞餓鬼どもが。
頭の中で毒づいても声が消えるはずはないのでパソコンに繋いだままのヘッドフォンで耳を塞いだ。何だかよく分からないバンドの下手くそな曲を爆音でかける。英語なので何を言っているか聞き取れない。でも聞き流すのに最適な曲。いちいち歌詞の意味なんて考えていられない。
 昨日も一昨日も何も食べていないけど不思議と空腹感はなかった。最低限水分を補給していれば一週間は生きられるんだっけ。二週間だったかも。忘れた。
 自分の生白い肌が暗くなりかけた部屋の中で浮かび上がる。我ながら引くほど細く骨ばった腕は筋肉などとは無縁で、きっと500ミリリットルのペットボトルよりも重いものを持ったら崩れる。折れる。まぁそんなもの持たないけど。
 あ、あの棚の上埃がある。昨日も掃除したのになんでなんでなんでなんでなんで汚い。また掃除しなきゃ。曲を止めて立ち上がる。
 まずは本から出そう。そんでこの棚を一から掃除しなおそう。一冊ずつ手で掴んで床に落とす。ばさばさと紙の音と共にページがひしゃげていくが、気にしない。次はCD。何度も何度も叩きつけられたせいでケースはひびだらけ。でもやっぱりこれも気にしない。
 大事にしていないわけじゃない。この本は何度も何度も読み返したし、CDの曲は全部聞いた。例え壊れてもずっとこの棚にしまっておく価値を認めるくらいどれも好きなものばかりだ。そうでなければとっくに売り払っている。
 雑巾どこだっけ。部屋を見回す。机の下に薄汚れた布が落ちていた。これだ。本とCDが散乱した床を踏み分け、それを手に取ろうと腰をかがめると、丁度目の前にあったパソコンの画面に自分の顔が映る。久しく見ていなかったけれど、何も変わらない。伸び切った髪もそれに隠れて見えない自分の目も。全部全部全部何一つ変わらない。何度見ても同じ。何度見ても、

なんて愛しい。

夕暮れ


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