「ねえ」
「…」
「ねえってば!」
何で無視するの。
抗議するかのように後ろから服を引っ張るが、うるせえと一蹴された。
「折角いい天気なんだから外に遊びに行こう」
「昨日一日部活で疲れてるから嫌だ」
「ケン、いつもそう言う」
「いつも疲れてんの」
…疲れてるならゲームなんてしなきゃいいのに。ぴこぴこぴこぴこうるっさいわ。っていうか私が来ているときにやらなくてもいいじゃない。ゲームのし過ぎで目が悪くなればいい。
「ケン」
「うぜえ。話しかけんな気が散る」
「後ですればいいでしょう!」
「シオリこそ後で話しかければいいだろ」
「今話したいの!」
「話してれば」
「ケン返事してくれない」
「するする。超する」
嘘吐き。どうせくだらねえとか言って真面目に聞いてくれないくせに。今ケンにゲームと私どっちの方が大切かって聞いたら、きっと彼はゲームと迷いなく答えるだろう。自信がある。
こんな悲しい自信なんかいらない。
「…もうすぐ誕生日だね」
「うん」
「何か欲しいものある?」
「金」
そんな身も蓋もない…。もっと具体的に言ってほしい。本当はサプライズとかしてあげたいけど、ケンはそういうのは苦手らしい。
「具体的に言ってよ」
「うん」
「うんじゃなくって」
「うん」
む、むかつく。年下の癖に。出会ったばかりのころは先輩先輩って可愛かったのに。今や憎たらしいクソガキになりつつあるよ。まぁガキって言っても年は一つしか変わらないんだけど。
「ケン」
はいはい、と投げやりな返事。こちらを見てすらくれない。
ケンの背中は大きくて、ちょっとごつごつしている。私はこの背中が結構好きだったりする。でも、こんな風にずっと背中ばっかり見ていても退屈だよ。ケン、こっち向いてよ。
「ケン」
「うん」
「暇だよー」
「うん」
「目玉焼きには醤油だよね」
「うん」
「…楽しい?」
「うん」
「好き」
「ぶはっ」
あれ。
ケンは突然げほごほとむせ始めた。私の話、聞いていないんじゃなかったの。
「…あ」
その耳が真っ赤に染まっているのを見て、にんまりと口角が上がるのが分かった。
後ろから思い切り抱き着くと、彼は大袈裟なくらい飛び上がる。
「お、お前な!ばか離せ!」
「私の話、ちゃんと聞いてたんだ」
「お前が聞けって言ったんだろ!」
「ケン、私のこと好き?」
「好きじゃねえ!胸押し付けんな!」
ああだから私、彼のこと大好き!
背中
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