「ケン」
「なに」
「ケンちゃん」
「だから何」
「その漫画面白い?」
「うん」

私は学んだ。ケンはまともに呼んでも返事をしてくれない。ならばこっちにも考えがある。

「ちょっとこっち見て」
「なんだようるせー…っ!?」

彼の視線が手元の漫画からこちらに映った瞬間、シャツの前をばっと開いた。ぼっと彼の顔が赤くなる。

「はい見たー嫁入り前のおなごのおっぱい見たー。責任とってね?」

まぁ、下着はつけてるけど。

「みっ、見てねーし!」
「見たよ。だってケン顔赤いし」
「見てない!」

ふふふ。作戦成功。次から構ってもらいたいときはこうしよう。

「お子様な君にはちょーっと刺激が強かったかな?」
「ガキ扱いすんな!」
「部活とゲームと漫画ばっかりで全然手出してくれないくせに?」
「そ、それは…っ」
「それは?」

そう問いかけながらベッドの上に寝そべるケンに近づくと、彼は慌てて起き上がり距離をとった。ごん、と彼の頭が壁にぶつかる鈍い音がする。

「シャツ!ボタン!留めろよ!」
「どうして?」
「み、見えるだろ…っ」
「見せてるんだよ」

我ながらまるで痴女みたいな台詞だ。うーん、でも、楽しい。

「…み、見ても、いいのかよ」
「へ?」

――お?ケンが、あの奥手・硬派のお手本のようなケンが、興味を示している?

「シオリは、そういうの、嫌じゃねーの」
「嫌じゃないよ。だって私ケンのこと好きだし」
「お前なぁ…」
「もちろん見るだけじゃなくて、触ってもいいよ。あと揉んだりとか、舐めたりとかも」
「揉…っ何言ってんだ!!」

怒られた。

「なによ。ケンは私とエッチしたくないの?」

一体付き合ってどれだけ経つと思ってるんだ。

「え…エッ…チって」
「したくないの?」
「…したくないわけじゃ…」
「じゃあほら」
「うわっ!?バカ!!」

煮え切らない態度に焦れた私は、彼の手を掴んで自らの胸にぴったりとあてがった。

「…っせ、先輩…」

ケンは真っ赤な顔でだらだら汗をかいている。動揺のあまり呼び方まで昔に戻ってしまった。

ちょっとかわいそうなくらいの狼狽えっぷりに、私の加虐心がますます疼く。

「ブラ外す?」
「!!」
「直接触っていいよ」
「待っ…いい!外さなくていい!!」

彼はホックを外そうとする私を慌てて止めた。やっぱり駄目か。

「もう!ヘタレ!」
「ぐっ」
「ここまでしといて!何を今更迷うことがあるの!」
「迷うに決まってんだろ!」
「だから何を!」
「初めてなのに勢いだけでとかぜってぇやりたくないんだよ!」
「じゃあいつならいいの?」
「…」

沈黙。

「もう!!ばかっ!!でもそういうとこ大好き!!」
「お前…っ、やめ、今自分がどういう格好してるか考えろ!!」
「触る?触っちゃう?」
「触らねぇ!!」

いっそのこと襲ってしまったほうが早いんじゃないかなぁ。

焦れる


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