「っていうかさ、何でそこですぐバレるような嘘吐くの?」
「あー分かる。浮気するんなら最初から完全に隠せって感じだよねぇ」
「馬鹿にしてんの!?って引っぱたいてやったわよ」
「ユキもさ、気を付けた方がいいよ」

えっ。どうしてその話の流れで私に振るんですか。

弁当を食べる手を止めて、先程から彼氏の愚痴で盛り上がっている同僚たちを見る。

「彼氏いるんでしょ?佐城くんだっけ?」
「あ、あぁ…まぁ、うん。いますね、はい」
「あんたボケっとしてるから、浮気とか気が付かなさそうだけど」
「ボケっとなんかしてないよ」

失礼な。

「男はね、下半身でモノを考えるんだから」
「身体は繋げたかもしれないけど、心はお前にあるからこれは浮気じゃないとかね」
「どの口がほざいてんだっていう」

キイチくんが「心はユキにあるから!浮気なんてしてないから!」と焦る姿を想像しようとして見たけれど、私の力では無理だった。

そもそも焦るとこを見たことがない。

あと面倒くさがりだし、マメじゃないし、優しくないし。

そうだな、キイチくんなら。

――なんで俺がそんな面倒なことしなきゃなんないの?

…うん。これだ。これ。絶対こう言う。この台詞を言ってる彼のことは簡単に想像できるもん。

「甘い!甘いよユキ!」
「えっ、ちょ、近い」

鼻息荒く迫ってくる同僚。なに、今日なんでみんなこんなに熱くなってるの。怖いよ。

「浮気しない男なんていないんだから!」
「そ、そうなんだ…」
「その定義でいくと俺は男じゃなくなりますね」
「…キイチくん」

突然現れた本人に驚いて名前を呼ぶと、鋭い視線で睨まれた。何故睨まれるのかさっぱり分からない。

「馬鹿じゃないの?」
「えっ、なんで!?私なんかしたっけ!?」
「なんで俺のことかばわないの?なんでうちの彼氏は浮気なんかしませんって言わないの?馬鹿なの?」
「いひゃいれすごめんなひゃいゆうひへ」

物凄い力で頬を押し潰される。上手く喋れずふごふご言う私。キイチ君はそれを鼻で笑い、ぶさいく、と呟いた。うるさいよ。

「明日の風呂掃除ユキね」
「えぇっ!明日はキイチくんの番でしょ!」
「文句言うな。俺を怒らせた罰」

また押し潰された。

「はひ」

渋々承諾すれば、彼は満足そうに笑う。良い笑顔ですね。こんな顔普段見せないじゃないですか。

「じゃあ俺もう昼休み終わりだから」
「バイバイ!」
「…何その良い顔。ムカつく」
「いたっ」

今度は頭を軽くはたかれた。

ちょっと!もっと私を大事にしてよ!なんなのさっきから!バイオレンスか!

「じゃあね」
「もう来んな!」

食堂から出ていくその凛とした背中を見つめながら、解放されたことに対する安堵の溜息を吐く。

何しに来たんだろうあの人。ずっと私たちの話を聞いてたのかな。だとしたら結構近くの席に座っていたってことだけど…全く気が付かなかった。

「…ごちそうさま」
「あー何か今日お腹いっぱいだわ」
「なんかだるいかも。ユキちょっと私の仕事半分もらってくんない?」
「えっえっえっ…ちょっと待って私まだ食べ終わってない!」

ガタガタと立ち上がる皆に、こちらも慌てて片付けを始める。

「私腹立ってきた」
「はー…ユキに彼氏がいて、どうして私にはいないんだろ」
「ね、本当ムカつくよね」
「なんでそんなひどいこというの!?」

私何もしてなくないですか!?

「「「勝手にやってろバカップル」」」

――そうして冷ややかな目線で睨まれた挙句、午後の仕事で散々虐められた。散々である。

「これも全部キイチくんのせいだ!!」
「うるさいよ。黙って」

しかも帰って彼に八つ当たりしたら、大事にとっておいたプリンを食べられた。さらに風呂に入っているとき電気を消された。もう泣くよね。泣くしかないよね。

「馬鹿じゃん。自分が悪いんでしょ」
「うっうっ…もう嫌だ…キイチくんなんかきら…っんん!」

嫌いだ、という前に口を塞がれる。

「俺が、何だって?」
「…」
「まさか嫌いとか言おうとしてないよね」
「はい…」
「だよね。そんなこと言ったらただじゃおかないし」
「…」
「嫌いじゃなくて、何て言えばいいんだっけ?」
「…スキデス…」

せめてもの抵抗に棒読みで呟いてみたが、それでも彼は満足したらしい。

「知ってる」

キラキラした笑顔を向けられ、文句もなにもかも吹っ飛んでしまう。

言いたいことはたくさんあるのに、そんな、こちらまで嬉しくなってしまうような顔で。

…惚れた弱みって、やつですかね、これ。だからバカップルとか言われちゃうんですかね。まぁもうなんでもいいや。

勝手にやってろ


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