焦がれて焦がれて、焼けてしまいそう。いっそ燃え尽きてしまったらどんなに楽だろう。
「…」
彼の手が柔らかく身体をなぞる。目を閉じてその感覚に浸っていると、勝手に涙が滲んだ。
嗚呼、なんて弱い。なんて脆い。それでも良いと望んだのは自分なのに。
「綺麗だよ」
囁く声。もう何度目の台詞だろう。それでも私の心は馬鹿の一つ覚えのように浮足立つのだ。
「嬉しい」
喉から絞り出した返事は震えてはいなかっただろうか。自分では分からない。
この人に愛されるのは嬉しい。抱かれるのは心地がいい。
でも同時に、ひどく虚しい。
真っ白なシーツの上できつく絡み合いながら、泣いているのを気づかれないようにするのに必死だった。
この人の全部が欲しい。私一人だけのものにしたい。
「…っ」
でもそれは、叶わぬ夢なのだ。
彼の愛はあまりに大きすぎて、あまりに深すぎて、とてもじゃないけど手に負えない。きっと手に入れることなんてできない。
だからこそ余計に欲しくなる。焦がれて焦がれてたまらなくなる。
「泣いているの?」
「いいえ」
「でも涙が」
「これは生理現象よ」
「…気持ちがいい、という意味かな」
「えぇ、とても」
ふ、と目を細めて微笑むと頬に雫が零れ落ちてしまった。それを彼の指が優しく拭う。
「それは良かった」
「ふふ」
「君はまるで水のようだからな」
「どういう意味?」
「俺の手を簡単にすり抜けて行く」
…どの口がそんなこと言うのよ。それは貴方の方でしょう。
私の手に一度だって収まってくれたことなんてないくせに。ひどいわ。
もうやめたい。まだ離れたくない。相反する感情がせめぎ合って、心の中がぐちゃぐちゃだ。
こんな格好悪いところを見せるわけにはいかない。私がどう思っているかなんて、きっと彼にとってはどうでもいいことだから。
どうせ望んだって手に入らないなら、余裕のあるフリをしていたいじゃない。
焦がれて焦がれて仕方ない私を水のようだなんて。本当に笑える程、この人は私を見ていない。
不毛なことは分かっている。どうしようもない愚か者だということも、ちゃんと自覚してる。
「…愛しているよ」
「えぇ、私も」
だけど、今はまだ溺れていたい。
恋煩い
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