日曜と寝癖と恋の話

クラスの子に、サヤって彼氏いるのと聞かれた。

彼氏はいない。今まで一度もできたこともない。

でも、好きな人はいる。

「ロクくんロクくんロクくん」

もう昼になろうとしているというのにまだベッドの中で眠り続けている彼。その布団の上からばふっと抱き着いてみた。

「う…」
「ロクくん起きてよーもう昼だよー」

いい匂いがする。ロクくんの匂い。

彼が寝ぼけているのをいいことに、わたしはその匂いを堪能する。あれ、なんだか変態みたいじゃないか。

ううん、でもいいや。幸せだもの。

「重い」
「失礼な!レディに向かってその言葉は禁句だよ!」
「あーうるせ…」

益々布団の中に潜り込んでいくロクくん。日曜だからって怠けたい気持ちは分からないでもないけど、一緒にご飯食べようよ。

っていうかこの調子だと朝ごはんも食べてないはず。ちゃんと三食しっかり食べないとダメなんだからね。

全く、わたしがいなかったら本当に駄目なんだからロクくんは。

「いい天気だよ。お出かけしよう!」
「寝る。眠い」
「疲れてるの?」
「別に」
「えー…お昼ご飯作るから起きてきてよー」
「んー」

生返事しか返ってこない。ちゃんと聞いてほしいけど、眠いせいかわたしがこうして上に乗っていても怒らないからちょっと嬉しい。

布団からはロクくんの顔の上半分だけが見えている。眉間に皺が寄っていた。おまけに髪の毛は寝癖で跳ねまくっている。

…かわいいなぁ、と思うのはわたしの贔屓目だろうか。

普段のロクくんはどちらかというときりっとしていてかっこいいほうだけど、こんな風に無防備な姿のときは年上には見えないくらい幼くてかわいい。

わたしだけだよね。ロクくんの寝起きの顔を見ることが出来るのは。

「ロクくん」

抵抗しない彼に調子にのって、寝癖だらけの頭に唇をつけた。

わたしにとってロクくんは特別だけど、ロクくんにとってわたしは特別?

「…何してんだ」
「うわあああ照れるから何も言わないで!」
「あほ」

ちゅーしちゃった。頭だけど。

うふふ、とにやにやするわたし。もぞもぞと布団に顔をうずめるロクくん。

どうせこの人はキスくらいじゃ動じないんだろうな。そう思っていたら気が付いてしまった。

「ロクくん、耳赤い」
「うるせえ」
「わたしがちゅーしたから?」
「もうお前本当黙れ…」
「黙らない!」

やっぱり、わたしはこの人のことが好きだ。ぎゅうっと布団ごと抱きしめる。

彼氏はいない。今まで一度もできたこともない。クラスの女子の恋の話は、ただ聞くだけの役。

幸せそうな彼氏彼女の話が羨ましくないなんてことはない。わたしもロクくんとそんな風になれたらいいなって理想ばかり夢見てる。

「もう一回していい?」
「いいから退け」
「えっいいの」
「そういう意味じゃない!何もするな馬鹿!」

でも、しばらくこのままでもいいや。


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