02
こんな風に、誰にも触れることを許さないような、そんな態度ばかりを向けられて。
それで全く苛々しないでいられる程、俺は紳士じゃない。何故長期戦を自ら望んでしまったんだ。
「いやならいいよ。無理に言ってごめんね」
はぁ、これでも駄目か。手を退けようとすると、彼女の掌がシャツの裾を掴んできてそれが止められた。
「嫌じゃ、ない、です」
…苛々しないわけじゃないし、いい加減キスの一つや二つ、許してくれと思うけど。
でもどんなに拒まれたって、きっと俺はこの子のことを嫌いにはなれないんだ。
じりじりと距離を詰めて、凝り固まったその心をほぐしていく。俺に残された道はそれだけ。
我ながらうんざりする。でも、かと言って速水さん以外の女の子を見る気はこれっぽっちも起こらなかった。
「…じゃ、授業終わったらおいで。俺の家分かる?」
「一回、講座で宅飲みしたことありましたよね」
「あ、そっか。そうそう、あのときの家と同じだから。一応場所分かんなくなったら電話して」
こくり。速水さんが頷いてシャツから手を離す。
少しだけ視界に入った彼女の頬が、色づいていたのは気のせいか。気のせいではないと良い。
* * *
「んぁ…?」
ハッと気が付いて飛び起きた。今何時だ。いつの間に寝落ちしていたんだろう。
慌てて携帯を見る。着信一件18時速水さん。現在20時半。やばい、もう二時間以上経っているではないか。
パソコンの前で座ったまま眠っていたせいかあちこちが痛むが、そんなことは今どうでもいい。
「も、もしもしっ速水さん!?」
『もしもし』
「ごめっ、俺寝てて…今どこ?」
『…多分そうだろうなって思ってたんで、大丈夫です。一旦家に帰ってます』
「迎えに行く。家どこだっけ、確か大学の北門の方だよね」
『いや一人で行けますから』
「駄目駄目駄目。近くまで行ったらまた電話するから、準備してて」
『やな…っ』
何か言いかける彼女の声を遮って電話を切り、バタバタと玄関で靴を突っかけた。
自分から呼びつけておいてそりゃないだろ、と我ながらヘコむ。
ガチャリと乱暴にドアを開く。ここから北門まで走れば10分もかからないは、ず…
「え」
「あ、こんばんは…」
アパートの廊下、玄関ドアの隅。何故かそこに速水さんが壁にもたれるようにしゃがみこんでいた。
え、うそ。まさか。頭によぎる一つの考え。