旅行に行きましょう、と彼女が突然言い出した。

「旅行?」
「ええ!そうと決まれば早く着替えなくちゃ!」
「ちょっと待って、今から行くの?」

それは果たして旅行なのか。ただ出かけるだけじゃ駄目なのか。どうして今なのか。

様々な疑問が沸き起こってきたけど、彼女に尋ねてみてもきっとよく分からない答えが返ってくるのみだろう。いつもそうだ。

そして数時間後、僕らは遥か離れた海にいた。何故だ。何故海なんだ。そしてここはどこなんだ。

小さなトランクに何日分かの服を詰め、電車に乗り、聞いたことのないような駅で降りた。そしたらすぐそこに海があったというわけだ。

未だ疑問を頭に浮かべたままの僕に構わず、彼女はじゃぶじゃぶと水の感触を楽しんでいる。あぁもうスカート汚れるって。慌ててズボンの裾をめくり駆け寄った。生ぬるい海水が足にまとわりつく。

「うん、決めた!」
「決めたって、何を」
「ここに家を建てましょう」
「はい?」
「海沿いの家、憧れだったの。場所は…そうね、あの辺の土地がいいわ」
「何が何やらさっぱりなんだけど」

ふふふ。彼女が笑って海岸の近くの空地を指さした。

「これは未来の計画を立てるための旅行なの」
「計画?」
「どこに家を建てるか、どんな家がいいか、子供は何人か、とか」

そうだったのか。彼女の思考回路は僕には理解できない。旅行に行こうって言ったり、未来の計画を立てるなんて提案したり、全部が突然すぎる。

そもそもまだ一か所…ここだけしか訪れていないじゃないか。名前も知らない町なのに、将来のことをそんな風に軽々しく決めて良いのか。

「いいの。こういうのは直感よ」
「…」
「こんなに綺麗な海があるんだから、それでいいじゃない」
「海、ねぇ…」

首を傾げる僕に、彼女は自身の「計画」とやらを嬉々として説明する。

「朝起きたら、まず最初に君とこの海を散歩するの。そして夜寝る前にはこの砂浜で、その日一日なにがあったかをお話し合ってから寝る…どう?素敵じゃない?」

…うん。

そうだね、素敵だ。

何が素敵かって、君の隣に当たり前のように僕の存在が描かれていることが。

「分かった。じゃあ、ここに住もう」
「やった」

ばしゃり。透明な水が跳ねる。潮の匂いが鼻を掠める。彼女の長い髪が風になびく。

悪くないな、と思ってしまった僕は多分自分で思うよりずっと彼女に毒されてる。

未来計画


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