DCshort | ナノ
「ごめんね、名前付き合わせて」

「全然構わないけど、婚約者さんが来れなくなったからって友達の私でよかったの?」

「いいのいいの!それに今面白いキャンペーンがあるらしいし」




数少ない友達からの誘いはウェディングドレスの試着に付き合って欲しい、という内容だった。
昨夜連絡があり、たまたまの非番で時間も空いていたので、誘いに乗ってみたらそういうわけだった。




「キャンペーン?」

「そ、名前は浮いた話聞かないじゃない。いい人いないの?」




彼女とは高校時代の友人だ。関西から引っ越して心細い時に出会った数少ない友達。そんな彼女がもうすぐ結婚するという。



「名前は警察官続けてるのよね?周りの人とかいるんじゃないの?」

「私のいる所は女性警官が多い部署だからね、あんまり。たまに合コンとか開いてくれるけど」


嘘だ。公安にいる、ましてやゼロの管理下にいるだなんて親にも言えやしない機密事項。こうやってさらりと嘘をつくのは上手くなったなと自分でも思う。
さらに、そのゼロの人間と恋仲、だなんて言えるわけもない。

友人は何も疑うことなく、そうなんだと笑った。




「ほんとにいないの?」


「…好きな人くらいいるわよ」


ほんの少しくらい正直なことを言ってみた。嘘じゃないことを1つくらい。


「そうなの?!今度紹介してよね。私もちゃんと見定めたいし」

「ふふ、なにそれ」

「名前って色んな人たちから言い寄られてたじゃない。部活に言い訳して結局3年間彼氏も作らず……大学時代もそうだったわよね。男慣れしてないんじゃないかなーって。だから私が代わりに見てあげる」

「それは頼もしいわね」


更衣室の向こうから友人の声を聞きながら出してもらったお茶を一口飲む。



……懐かしい友人との会話。

以前ポアロで蘭ちゃんと園子ちゃんの会話に混ぜてもらったことがあったが、出会ったばかりとは言え、どこかぎこちない気持ちだった。
でも今、会話しているのは昔の友人。

何年も会っていなかったのに彼女とはすぐに馴染んで心地よい。


たまにはこういうのもいい。これが日常ってやつなんだ、平和というものなんだーーーと同時にこの国を私は彼と一緒に守りたい、と改めて思う。その意思がまた私を強くさせる。



「じゃーん!!見てこれ」


コーディネーターとともに更衣室から現れた友人は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。マーメイドラインのドレス。膝までのスレンダーラインが彼女のスタイルの良さを際立たせていた。


「いいわね。でもあのプリンセスラインのドレスもいいんじゃない?」



横に掛けられているドレスに視線を移す。
ふわふわなスカート部分、ボリュームがあってウェディングドレスらしいものだった。



「そうなの。あれもかわいいよね、あ、そうそうさっき言ってたキャンペーンの件なんだけど」

「ん、そういえば言ってたわね。それが?」


そう答えるなり友人となぜか周りのスタッフの目の色が変わった。











ーーーー





「じゃあお疲れ名前!今日は本当にありがとうね」

「う、うんお疲れ…」

「籍入れる前に飲みにでも行こうねー!!」



ターミナル駅で彼女と別れ、私も最寄り駅まで向かおうと思ったけれど、少し疲れてしまったので駅前のカフェで一度休むことにする。


注文したミルクティーが届くまでスマートフォンを操作する。
仕事の連絡はなにもなさそうで一安心した。普段の非番なら家に居たり、一人で外に出ることが多いので緊急に呼び出しが起きてもすぐに飛んでいけるけれど、今日は少しヒヤヒヤした。
ピコン、と通知が飛んできた。先程別れたばかりの友人だ。今日はありがとう、そのメッセージにこちらこそ楽しかったと感謝の言葉を返して、スマートフォンを鞄に直た。


結婚式場から渡されたパンフレットとカタログを取り出して開いた。

きらびやかで厳かな式の写真が載っていた。友人はコミュニケーションが上手で友達も多いし、人望もある。
彼女の式はたくさんの人が来て、祝福されるのだろう。私もその一員だ。


「お待たせ致しました、ロイヤルミルクティーでございます」

「ありがとうございます」


テーブルに置かれたゆらゆらと揺れるカップの中身。ふとこの色のような髪をした恋人を思い出す。

結婚、するとしたら彼となのだろうか。
そもそも結婚、するのかあの人は。

友人が言っていたように、高校も大学も恋人なんて作ったことがない。

彼が私のはじめての男、だ。


だから危惧することもある、私の気持ちは彼にとって重いんじゃないかと。
好きだとか言うことに憚られるのはそこが原因だった。

学生時代なら、きっとなにも考えずに言えたのだろうーーーまだ20代半ばなのに悟りを開きそう。

こういうとき、そこそこに恋愛経験を積んでおくべきだったなと心の中で苦笑いした。

パンフレットとドレスのカタログの間に挟まれた写真を取り出す。



「まあいい経験よねこれも」

「なにが?」


予想外の声に驚き硬直した私の後ろから手が伸びてきた。

恐る恐る振り返るとグレーのスーツの上司が笑顔で私から奪った写真を見ていた。



くるりと返した写真には私のウェディングドレスの姿。

あ、怒ってるこれは。



笑顔ではははと返すも、上司には効果はなかった。









180504


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