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『おかしな話だけど、これがないと眠れないのよ』


金色の睫毛が揺れて、瞼が伏せられる。その姿にもなぜだかグッときたが、その彼女の手に握られているのは銃。


いつか、一緒に暮らし始めた日に彼女はそう言った。流石にそれを取り上げるのはできなかった。この国では基本的には銃を持つことは許されていないが、防衛省という組織の所属になったからには、ある程度許されているという理由もあれば、これまでの彼女の経歴上、そう簡単に平凡に生きることも難しいのだろうと考えていた。
実際、その考えも間違っていなかったが、それでも酷いものだった。

一緒に眠るということが、彼女にはできなかったのだ。……否、それは自分もだ。
職業柄といえばそれまでだが、少しの気配でも目を覚ましていたのもあり、彼女に気を遣わせてしまい、一時は寝室も別にしていたこともある。

何度か、翌日に差し支えても問題のない夜を選んで、意識が飛ぶくらいにめちゃくちゃに彼女を抱いたこともあったが、それを毎日続けるのも難しい話だった。


ーーーーしかし、今は違う。




「カラスマ……」


我ながら面白いがその寝言に胸が高鳴った。身を縮こますように眠る彼女はなんだか儚げでとてもじゃないが、ハニートラップの達人だとは思えなかった。年相応、といえばいいのだろうか。身をすり減らして生きてきた彼女にとって束の間でも安心して眠れて夢を見られることに安堵した。

漸く、だった。

俺をやっと信用してくれたのだと、嬉しくなった。
信用していないつもりは彼女にはないのだろうが、見覚えがなかろうと本心では俺が隣に居るほうが安心できないのだろうかと、ずっと心配していた。
その心配ももう無用だ。


彼女の頬を指で擽る。ん、と息が漏れた。
その金色の睫毛が少し動いたが起きる気配はない。



「……イリーナ。おやすみ」



どうか良い夢を。









161001

暗殺教室/烏イリ





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