少し、少しずつ冷たくなるベッド。さっきまで確かに感じてたぬくもりが、簡単に消えてなくなってしまいそうで、私はうっすらと目を開けた。
いつもは逞しい背中が弱々しく丸まり、ベッドに凭れていた。サイドボードにはこの家では彼しか飲まない、言わば彼専用のブランデーのボトルとグラスが置かれている。いつの間に、取り出してきたのだろう。彼は自分の家のように私の家の物全ての場所を把握している、それに対して特に気にもしなかった。だから、勝手に酒を持ち出したことも、グラスを取ってきたのも怒る気すらないのだけれど、その背中に喝でもいれてやりたいという感覚に陥る。
手を伸ばせば、すぐに届く彼の背。静かに、気配を殺して、ぽん、と肩を叩いた。一瞬ビクりとした彼は少し間をあけて振り向いた。
「どうかしました?」
もぞっと、布団を引っ張り顔の半分を隠した。彼の目を見つめないよう瞼を伏せながら、なるべく優しく吐息のようにそう言った。
「……なんでもない」
「……そうですか」
彼がなんでもないと言うのはわかっていた。彼を悩ますものはまだ彼自身の心の許容範囲の中なのだろう。いつか、教えてくれる、そう信じて、手を滑らせるとシャツを引っ張る。
「……リザ?」
「寒いんです。――だから、」
“抱きしめてください”
小声で呟き、彼を見た。少し間抜けな顔のあと、すぐに口角をあげて立ち上がる。そして半分ほど残っていたグラスの中身のブランデーを一気に飲み干すとベッドに体重をかけた。軋む音と振動を身体全体で感じながら、布団の中に入ってきた彼が私を包んだ。
さっきまでの小さな背の彼はもういなかった。2人で目を閉じて、別の世界へと逃避行。
title/夜風にまたがるニルバーナ」
110322
ロイ、アイ?