――――!
嗅ぎ慣れた硝煙の臭いが今日はやたらと鼻につく、というか噎せる。いけない、こんなことじゃ、殺られる。ただでさえ此処は戦場。――――イシュヴァールの地なのだから下手に隙を見せれば殺られる。その前に私が殺る。人を殺すことにもう躊躇いはない。それは私がこの世の中に絶望しているからなのだろう。キンキンと耳が痛い。周りの音が掻き消されるくらいに、耳鳴りが酷い。一体、今日はどうしたのだろう。私はおかしい。
「おかしいのは、元から」
「君はおかしくなんてない」
「……マスタ、ングさん?」
自嘲気味な笑い声に真っ直ぐ芯の通った声が痛いくらいに突き刺さる。
「珍しく魘されていたな。……いや、たまたま俺が居たから気付いただけか」
オレンジのライトが部屋を照らす。息を吐けばそれは白く、暖房器具もなにもついていないことがわかる。だけど寒いと感じることはなかった。彼は私の目をじっと見つめている。
「おかしくない」
もう一度そう言うと彼は私の目を掌で覆った。暗闇が私を浸食させる。何故かそれが心地好かった。
「――――……早く、皆が心から笑える世を作ろう」
それはいつか約束した遠い夢。
「ええ、新しい、次の世代が幸せになれるように」
未だに頭の中で鳴り響く銃声や砲声、爆発音がほんの少しだけ小さくなった、そんな気がした。
110308