ボールの入ったカゴはコート脇。レギュラー全員分のドリンクはもう渡してある。ユニフォームの洗濯も今終わったところ。
「うーん、こんなもんかなぁ」
額の汗を拭いながら周りを見ると、大体今できる仕事は終わったようだ。ザッとコートを見渡しても、練習も順調に進んでいるようだし。
「ね、白石。今特に仕事ないなら部室の掃除とかしてきてもいいかな?」
「んー、せやな。ええで、頼むわ!」
コート脇で指示を出していた部長の白石に許可を取って部室に戻る。まずはもわん、とした熱気を出すためにとりあえず窓を開けた。
「みんな、よくもこんな散らかしたなぁ……」
思わず苦笑がもれる。テニスではいっぱしの彼らも普段はただの男子中学生。結構女の子のファンもいるみたいだけれど、部室での様子は到底見せられない。
「うわ、何この靴下…カビはえてそー……」
「え、これってもしかしてエロほっ……こほん。とりあえずそっと戻すとして」
「あちゃー、もう制服こんなテキトーに突っ込んだらくしゃくしゃになるってー」
ボツボツと独り言を言いながらテキパキと部室を綺麗にしていく。四天宝寺中の部室のロッカーには鍵はついていないため、部員からはちゃっかり中の整理まで頼まれている。とりあえず片付けられる範囲は片付けた。
「ま、ざっとこんなものかなぁ。うん、綺麗!」
一人で出来に満足していると、コロコロと足元に何かが転がってきた。拾い上げるとそれは白い包帯の巻かれたもの。
「あれ?白石のロッカーから転がってきたのかな……」
未使用の分でまだまだたくさんあるようだ。別に怪我をしているわけでもないのに常に左手に包帯を巻いている白石。金ちゃんを従わせるためとはいえ、なかなか律儀だ。
とりあえずロッカーに戻してあげよう。そう思った時に部室のドアが開く。
「あれ、白石?どうかした?」
「あ、いやな。金ちゃん探して木登ってたら引っ掛けてもうて……」
そういって挙げた左手の包帯はボロボロで、確かにひどい有様だ。
「ちょうどええし名が変えてーや」
そういいながら椅子に座る白石。しょうがないなぁ、といいつつも少しドキドキする胸を押さえる。
だめだなぁ、マネ失格。みんなと一緒にいるときは割と平気だけれど、こうして2人きりになるとどうしても緊張してしまう。なんせ相手は、1年の時からの片思いの相手。
「……ちょっと、なんでそんな見てくんのよ」
「いやぁ、名とこうして2人でゆっくり話すのも久しぶりやなぁ、て」
「っ、そ、うかなぁ」
顔に熱が集まる。それを隠そうと俯いて手に包帯を巻き始める。ふと、目の端に机の上に転がっている水性ペンが映った。
「……ねぇ、白石って包帯毎日変えてるの?」
「ん?そらまぁ、風呂入るしなぁ。夜にはずして朝つけてるわ」
「ふーん……」
ということは、お風呂に入る直前まで包帯は付けっぱなし。前に部室で包帯をはずすのを見たときは、話しながらまるで手の方なんて見てなかったし。お風呂はいったら、水性ペンって消えるし。時刻はコートが赤く染まる、逢魔が刻。
「白石。目、閉じて」
「は?」
「いいから!」
白石がちゃんと目を閉じたのを確認して名は水性ペンを取る。そして包帯を巻く前の白い腕にのせた。
「……絶対、ぜぇっっったい!目、開けないでね……?」
「なんやそれ怖いなぁ、まぁわかったわ」
軽く笑って言う白石をそろそろと伺いながらもペンを滑らせる。何が腕に当たっているのかわからないため、白石は何やろ?と首を傾げる。それでも時々くすぐったいのか少し肩を震わせている。
「はいっ、終わり!」
「あ、もう包帯巻いてもうてるやん」
何やったんや、今の。そういって不満そうに包帯をつまむ白石から必死に顔を逸らす。
「なんでもない、おまじない!」
じゃ、わたし仕事あるから。
そういって部室を飛び出た。
* * *「今日もお疲れ様ー」
帰っていく部員たちに声を掛けながら器具の片付けをする。もう誰一人残っていない部室。
わたしもそろそろ帰ろうかな。着替え終わってロッカーからかばんを出す。するとヒラリと何かが落ちていった。
「あれ?これって……包帯?」
といえば、あの男。けれど、なんでそれが私のロッカーに?それも一切れだけ。
不思議に思いながら拾い上げた瞬間、見えた文字。
「あの……バカ!お風呂入るまで包帯取らないって言ってたのに……!」
「バカはちょっとひどいんやないん?愛しの彼氏さんに」
突如聞こえた意中の人の声にパッと振り向くとそこにはドアに寄りかかった我らが部長様。兼、たったこの瞬間から私の彼氏様、らしい。
「……好き、」
「俺も」
包帯が解かれた腕と、その包帯とには意味の違う2文字。けれど意味するところは、同じ。
end.
ものすごく駆け足で書いた白石夢。一応誕生日ということでおめでとう。ていうかこれ白石?←(10/04/14)
sakuyo [
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