「リュウ、こっち!」
駅前の込んだ銅像近くで遠方をやはり人に埋もれながら歩いてくる流を見つける。大きく声を張り上げて呼びながら手を振る。流は小さく手を振り返し、駆け寄ってくる。そして自然な動作で手を繋ぐ2人。もうQクラスの誰もが認める公認ラブラブカップルだった。
「で、どこ行くの?」
「んー、じゃあまずはやっぱあそこだよね!」
名たちの姿は早々人込みに埋もれて行った。
天気は快晴。気分も上々。
今日は待ちに待った、デートの日です。
* * *約2、3分程歩いてついた先は今話題のブランド店。一昨日メグと一緒に見ていた雑誌に載っていた流行店だ。ちなみに『彼氏と絶対行きたい店ランキング』では3週連続ぶっちぎりの1位!
私は胸を弾ませて店に入った。店は左右に二つに別れていて、右が女性服、左が男性服となっているようだ。
「リュウ、なんかほしいものある?」
「別に」
というわけで、必然的に女性コーナーへ。
目に付いた1着を手に取っては、うっわーこの服可愛い!マネキンがはいているパンツを見れば、あ、このジーパンいーかも!そして衣服棚を物色しながら、ミニスカは捜査に適しないから却下!などと考えを巡らせる。
しかしそこでふと思いとどまる。ミニスカ……確かに捜査には適しないけど……。
今日の自分の格好を見下ろしてみる。動きやすさを優先したハーフパンツにシンプルなサンダル。上は水色ドットのキャミに白い野球帽。午後からは寒くなるとのことなので、青チェックの薄い上着を腰に巻いている。いわゆるカジュアル系だ。
しかし、なんとも色気の無い。久しぶりのデートなのに。自分のファッションに対する無自覚さを痛感しながら先日のことがフラッシュバックされる。
「ほんと、名ってパンツばっかだよねぇ…スカートはかないの?」
「だって捜査の時邪魔そうだし」
「そう?せっかく可愛いのにもったいない」
「お世辞はいーから」
「むっ、お世辞じゃないもん!リュウだって絶対スカートの方が好きだよっ!」
あの時は特に気にも留めずに笑い飛ばしたが。もしかしたら……。
先ほど手放したミニスカを手に取りじっとみる。
……よしっ!
「リュウ、ちょっとここで待ってて!」
言うや否や、つい先ほどから目をつけていた数着を手に取り名は試着室に入った。
「う、わぁ……」
鏡の中に写った自分の姿に、意味も無く声を上げてみる。なんというか、なんともいえないというか、しかしこれはもう似合う似合わない以前の問題で、
「は、恥ずかしっ!」
足の間はすーすーするし、身にぴったりと張り付く重ね着のせいでおなかを引っ込めるように気をつけなきゃいけないし、…あれ、自分もしかして…太った…?とかいう知りたくも無かったコトを自覚しちゃうし。
でも、いつもはこれまた捜査の邪魔、ということでくくっていた髪を下ろし、軽く整える。
リュウ…なんて思うだろう……?
ドキドキしながら試着室のカーテンを開けると…――
「ねぇ、僕、暇そうだねー」
「これからお姉さん達と遊ばないー?」
流は綺麗な4人の女子大生に囲まれていた。これはどうみても、どう見間違えても、逆ナン。初めてのことに唖然としていると、流が顔を上げるのが見えた。
「人を待っているので」
ごく普通に言ってのける流。まさかついていくとは思っていなかったけれど、嬉しい。でも、また1つ違う感情。綺麗にオシャレしたいかにも大人の女、て感じな人たちを普通に軽くあしらう姿。いかにも慣れている、と言った様子だ。
そりゃあリュウはモテるけど。きっと逆ナンなんてよくあることなんだろうなぁ。とか考え出したら結構空しくなってくる。
試着室のドアを半開き状態でボーっと見ていたら、女子大生の1人が流の腕をつかむのが見えた。流はかなり嫌そうにしているが女子大生達はそれでも、と引っ張っていこうとする。
その瞬間、名の中の何かが切れた。
「リュ、」
勢い良くドアを開ける。
「リュウに触るなぁぁぁ!!!」
私の声に驚いて振り返る4人と1人。その他のお客様店員方はもう見えていない。というより見えていたらこんなことできない。
いきなりのことに呆然としていた女子大生たちはどうやら次第に周りの視線が気になりだしたようだ。
「な、なによあのコ……」
「頭おかしんじゃないの?」
「行こうよ、もう」
などとぶつぶつ言いながら去っていく。
ふぅ、ととりあえず胸をなでおろし流に向き直ると、きょとん?ぽかーん?なんと言えば良いのだろう。こちらを向いてはいるが、まるでどこかほかの場所を見ているような表情をしている。
もしかして、さっきの自分の行動が悪かったんじゃ…――
そう思い出すともう止まらなくて名の思考はどんどんと悪い方へと向かっていく。そ、そりゃそうだよね、こんな大勢の人の前、ていうかお店の中で大声て叫ぶなんて……。絶対行儀悪いって思われた……!
サンダルを履いてそろそろと未だに動かない流の元へ歩み寄る。
「りゅ、リュウ?」
恐る恐る下から覗き込みながら声をかけると流はハッ、いま気付いたかのように驚いて目を見開いた。そして1歩下がる。
え、もしかして…そんなにいやだったの……?一緒にいるのもいやなの……?
とりあえず名は必死だ。次第に涙目にまでなってくる。
そ、か…流はもう私なんか…嫌いなんだっ……!探偵にあるまじき思い込みの激しさのおかげでとうとう泣き出してしまった名。
「りゅ、うぅ…嫌わないでぇ……」
一瞬はどうしていいのかわからずに固まってしまった流だったが、この言葉には動かずに入られなかった。
「え……?」
気付けば暖かい腕に包まれていて、上を見ようと思ったら流の手が突然目を覆った。
「な、…んっ……!」
そして唇に柔らかい感触。耳元に一言。
「名が可愛すぎるのがいけないんだよ?」
目を覆っていた手をどけるとそこには微かに頬を染めてそっぽを向いている流。て、照れてる?
普段の流からは想像もつかないような表情だ。ほかの人は絶対知らないような。
「ふふっ」
「む、…笑わないでよ」
微妙に拗ねたような声。先ほどよりもっと笑いがこみ上げてくる。あの表情も、この態度も、私の特権、だよね!
そして幸せなところすみません。君達さ、そこ、店のど真ん中ね?
「名、ほら」
「うん!」
目線だけで会話を交わし、手を取り合って駆け出す2人。
「お客様、お待ちを……!」
焦った店員を後にして。お会計は後払いで。
CUTY JEALOUSY(可愛く妬いたら)(可愛く照れてあげる)
end.
THANKS 9000HIT !!!
>> ヤキモチ 流夢
ヒビキ様、いかがでしたでしょうか?なんかいろいろ間違えた気がしますが、こんなもんでよければどうぞもらってやってください。キリ番ありがとうございました!
07/12/30 初版
10/12/12 改稿 ゆん