「沖田さん、新八です。見せたい物って一体何ですか?」
「まあ入ってみれば解りまさァ。遠慮なくお入りなせェ」
「はあ…、お邪魔します」
沖田に言われるがまま、襖越しの会話を終わらせた新八は驚愕した。
そこに居たのはこの部屋の主ではなく、一人の美しい女の子だったのだ。
「えっ…あの、すみません、沖田さんは…?」
うろたえる新八にニコリと微笑み掛けた、その女の子のあまりの可愛らしさに、思わずドキリとした。
豆鉄砲を喰らった様な新八の表情を観て、女の子は「プッ!」と、耐え切れずに笑いを漏らすと、それがキッカケでプツンと糸が切れたように声を上げて笑い始めた。
「えっ、え、えぇッ!!?」
新八が驚くのも無理ない。
その可愛らしい女の子の笑い声は、とても聞き覚えのある人物のものと瓜二つだったのだ。
外見と声の一致しないその女の子に、新八は少々パニックになる。
すると、女の子は立ち上がり新八へ歩み寄った。
それに合わせ、どんどん新八は後退し、ついには廊下が終わってしまう。
(しまった、)そう思った時にはもう遅く、足を踏み外した身体は重力に従って落ちていく…
しかし、予想した衝撃と痛みは訪れなかった。
誰か、力強い腕に腰を抱かれ、落下を免れたようだった。
衝撃に備え硬く閉じた瞼をゆっくりと開くと、そこにはあの女の子の顔が。
この腕力、匂い、先程とは打って変わってサディストな笑み…
「もしかして、沖田さん…?」
「ご名答。よく出来ました〜」
ぐい、と身体を持ち上げられ、ニヤリ。という音が聞こえて来そうな嫌な笑みを浮かべながら有無を言わさず、部屋へ連れ戻される。
どこからどう観ても、綺麗な顔立ちの可愛らしい女の子に、男の自分がお姫様抱っこをされているというのは、端から見ればさぞかし異様な光景だろう。
新八自身これが夢なのか現実なのかわからなくなって来ていたが、屈辱的なこの状況にこの上なく火照った頬が、嫌でもこれが現実なのだと実感させた。
やや乱暴に敷布団の上に投げ捨てられ(何故敷いてある…)、ついに混乱のピークに達した新八は、声も出せずに口をぱくぱくしながら、女の子…モトイ、沖田を見上げた。
「女だと思って、トキメイタだろィ」
「そ…そんなこと―――ッ」
「相変わらず、嘘がヘタですねィ〜」
気が付けば、沖田が自分に馬乗りになっていて、グッっと、強い力で上から押さえ込まれてしまった。
見た目のせいで、危険信号が上手く働いてくれない。
「どいて下さいっ…!見せたい物ってコレですか?!ならもう帰りますよ」
「どうですかィ、コレ。惚れやした?付き合ってやってもいいんですぜェ?」
「―なッ?!何言って…ッンんっ――!」
唇で、強引に言葉を塞がれた。
しつこく口内を蝕んで、やがて離れた。
あまりの出来事に、言葉すら出てこない。
「あーあ。飽きた飽きた」
沖田はそう言うと、被っていたカツラを放り、女物の着物まで無造作に投げ捨てた。
化粧はしているが、やっといつもの正真正銘、男の沖田が姿を現す。
何事もなかったように私服に着替える沖田を観て、こんなことがあっても良いのだろうか?新八はとても理不尽に思った。
今の見た目はいくら綺麗な女の子とはいえ、男は男だ。
しかし、どうしたことか、心音の速度が緩んではくれない。
「yesと言わない、アンタが悪いんですぜィ?」
身支度を整えた沖田が振り返り、不適な笑みを浮かべた。
(ああ、やられた、)
はじめから、何もかも計算ずくで、仕組まれていた。
そして、まんまとしてやられたのだ。
2014.08.31
大変長らくお待たせ致しました!
この二人はめでたくお付き合いをスタート!笑
これはとっても新鮮なお題でございました!
なんだかとっても楽しく書かせていただいてしまって…
リクエスト、ありがとうございました!!!
夏那祈