出会いたての二人。
忍術学園の入学式の少し前から、
きり丸が土井先生と住んでいた設定です。








「きり丸、」

市場へ買い物へ行った帰り道、やや後ろを着いてくるきり丸へ手を伸ばすと首を傾げられた。
普通こうされたら手を繋ぐものだろう、と私は内心首を傾げたが、その時は気にも止めず何でもないと苦笑いして手を引っ込めたものだった。

それから私達が共に生活をしていく中で、そういう風なことが多々あった。

私は次第に疑問を抱くようになった。
何故きり丸は、手を繋ぐというような、私が当たり前だと思う、ふれあいの類いをしようとしないのだろう。
そう考えた時、それが、今まできり丸が独りで生きてきたからだということに気付いた私は愕然とした。

きり丸は、甘えることを知らないのだ。

そう思うと、今まで、きり丸は放っておいても一人で何でもこなせるから大丈夫だろう。と思っていた自分の浅はかさに今更ながら後悔した。

その日の晩、風呂から上がったきり丸に胡座をかいた膝を叩いて、こっちにおいでと言ってみせた。
しかしやはりきり丸は私の前でちょこんと正座をするだけである。

そうじゃなくてな、と私は苦笑いを浮かべながら、きり丸を抱えあげ自分の脚の上に座らせた。
風呂からあがりたてで何時もより高いであろうきり丸の体温が心地好い。
私の脚の上で戸惑うきり丸を抱き締め、にっこりと笑って、私には甘えていいんだぞ。と囁いた。

するときり丸は、涙を堪えるように下唇を噛みしめ微かに震えながら私の胸を掴み、

「ぼくもぎゅってしていいんですか…?」

と今にも消えてしまいそうな震え声を返えして来た。
私は当たり前だと笑う。
恐る恐るぎゅっと私の背中に腕を回したきり丸は声を上げて泣き出してしまった。

子どもを持つと言うことは、こんなにも愛しいものなのか。

いや、きり丸だからこそこんなにも愛おしくおもうのか、

私はきり丸の背中を、まるで今まで目を離していた時間を取り戻すかのようにゆっくりと擦った。

「お前に逢えてよかった」

きり丸は訊こえているのかいないのか、また一層強く私の背へ腕を回すのだった。





それからというもの、なにかとあれば私にベッタリと甘えるようになったきり丸が、私以外にベッタリと甘えないことに気付き、内心にやけるのであった。

きり丸が私に甘えるようになった切っ掛けとなったあの時の、「愛おしい」という感情が、本当はどういう感情だったのか、私は今、思い知っている。








20110105

『nestle』
(愛情を込めて)寄り添う
(愛情を込めて)<子供など>を抱き寄せる
〜を心地好く落ち着かせる
心地好くおさまる
体をうずめる















 
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