いつお仕事終わりますか、そんな声で、ぼんやりとした思考が途端に晴れた。
視線を泳がせて声の主を探すと、意外と近い場所で私の顔を心配そうに見上げる大きな瞳があった。
「もう少しだ」
「じゃあ、布団しいて待ってます」
「ああ、すまない」
久しぶりの我が家。
持ち帰った仕事が終わり、一緒に布団に潜るのを心待ちにしているきり丸が、せっせと布団を用意する音を聞きながら、再び書類に目を落とした。
こんな風に、仕事をする日が来るなんて、な。
私の、きり丸と過ごす総(すべ)ての時間の名は、「幸せ」である。
幸せとはなんとも不思議なものだ。
いつどこに、どの様な状態でも、きり丸さえ居てくれれば現れるのだから。
筆が止まっていた仕事が嘘のように進む。
布団を敷き終わり、私に駆け寄って来たきり丸の頭を撫でて、微笑んだ。
「さあ、眠ろうか」
「はーい!」
噫、愛しい。
20121127