「智吉さんはなんでぼくの商品をいつもいい値で買い取ってくれるんですか?」
全く予期しなかったその唐突な質問に、私は思わず言葉に詰まってしまった。
否、私は前々からその質問をされる時が来るのを恐れていた。
けれどまさか、きりちゃんがその質問を私に直接投げ掛けるとは思いもしなかった。
何故ならきりちゃんはそういうことには無頓着だったから。
私はそのきりちゃんの性格を解った気になって、軽率にも訊ねられることは無い、と、鷹をくくってしまっていたのだ。
あまりの動揺に、白紙の様に何処までも真っ白くなった思考の中では、きりちゃんを納得させられるような言葉が産み出される事はなかった。
「それは、きりちゃんの売ってくれる物がいいものだから」
絞り出されたのは、そんなこじつけたようなもの。
自分でも、下手な笑みを浮かべてしまったと思った。
「この前の、使い古しの褌もいい物だったんすか?」
「それは、使い古しと言っても状態もよかったし、まだ使えるからだよ。それに褌は包帯にもなるから、戦中の村には欠かせないものになるから結構売れるんだ」
「…ふーん」
更に最もらしい理由をこじつけてみた。
それらと、私の下手な笑顔とが合わさって、たいして間違ってもいないのに、まるで嘘を吐いているような気分になる。
きりちゃんは私の返答に少し詰まらなそうな表情を浮かべて頭の後ろで腕を組んだ。
「なーんだ。物がいいだけだったんだ。なんかぼく、期待しちゃって…損したーあ」
「それって…きりちゃん、」
私は耳を疑うしかなった。
きりちゃんが期待しただって…?
だとしたら何に? 私の返答にか?
きりちゃんが望んだ返答は一体どういうものだったのか、
私の身勝手な感情をそのまま押し付けるべきだったのか?
…違う。
きりちゃんはきっと、どんな品が良い値で売れる物なのかを見定めたかったんだ。
そうに違いない、
「そうだ智吉さんっ!時間あったら今からいつもの茶屋でお茶しません?最近新しいお茶菓子が出たらしいんですよー」
「いいね、行こうか!新しいお茶菓子かあ…楽しみだなぁ」
「すっごく美味しいらしいっす!この間しんべヱが絶賛してて――」
「どうしたんだいきりちゃん?」
「、智吉さん、いい笑顔」
にっこりときりちゃんが微笑んで。
その笑顔につられて私もまた笑った。
きりちゃんのあの言葉を訊いてから、自分でも驚く程、綺麗に笑えている気がした。
私は、前に進みたいと思う反面、思った以上にこの関係を気に入っているみたいだ。
きりちゃんの手を取って、世間話をしながら私達はゆっくりと歩き始めた。
繋いだ手は、理由はどうあれきりちゃんが私の返答に期待していたということに気持ちが高揚している単純な私の心のように温かい。
こうして私の傍にきりちゃんが居てくれることを幸福に思って。
今はまだ、これでいいんだ。と。
20110411
蔵廻りの智吉さん→きりちゃんでした!
智吉さんの一人称が「私」でいいのかずっと気になりながら書き上げましたが…
これは本当にマイナー過ぎるCPで!
皆さん智吉さん×きりちゃんもいいですよ!と宣伝したいのです!
智吉さんがきりちゃんの品を少しいい値で買ってくれるのは、本当はきりちゃんを好いていて贔屓目でみてるから。
だけどそれがきりちゃんにバレるのが怖い智吉さん。
そんな二人がいいとおもうんです。