シルノフ編 | ナノ


 武器の横流し、さらに仕入れ先すら知らないうちに入手ルートが変更され目的の物の入手が困難になっていること。なのにクルシェフスキー以外の組織は普段どおりの数の銃火器類を密輸している。
 これを悪意ある人為的行為と言わずどう言えというのか。それらの内部的な問題を解決するために、現在キルシュは動いている、もちろんボスであるミハイルの命令である。

「ククール、報告を」

 名指しされた本人は顔を面倒くさそうに歪める。
 あくまでも内部調査担当のククールではあるが、場合が場合ならば内部から外部への繋がりを伝い情報を洗い出すこともする。とはいえ本来の仕事の範囲内ではないから、できるならば他人に、しかも担当者に任せたいのだけど。
 とは決して言わずに、報告をするために口を開く。

「今のところ内部から扇動している者はいなさそうですけど、確信が持てるほどの自信はないです。そもそも外部の繋がり以降になると調べが付けにくいので」

 担当ではないので調べるアテがあまりない、とも言うが。それを遠回しに伝えると、キルシュも理解したのか今度はウォッカの隣に立つリキュールに視線を向ける。
 一見して白く見える長い銀髪に赤いメッシュが印象的な青年だ。先ほどから一言も発さずこちらの話を聞いているだけだったが、話しかけられるとすぐに「はい」と反応を返す。するべきことをすでに理解しているのだろう。こういう無駄な手間が少ない部分をキルシュは好ましいと感じていた。

「リキュール、ククールと連携と取り、外部側からの調査をしろ」

 クルシェフスキーが使うルートを完璧に把握されている恐れがある。巧みに妨害されていることから、おそらく内部に密告者がいるはずだ。

「わかりました。外交顧問のほうにも助言をしてもらい、すぐに取り掛かります」

 リキュールが頷くと一つに括られ高い位置で結ばれた銀髪が揺れる。
 外交顧問と呼ばれたウォッカは「了解」と言って、また酒をあおる。そして胡散臭い笑みを浮かべ、一礼をすると部屋から出ていく、続いてリキュール、ククールと順々に出て行った。
 キルシュは執務机に着くと、手に持ったままだった刀を持ち上げ少しだけ刀身を外気に晒す。
 先日の、いや、もう一カ月以上前の出来事だ。普段は屋敷にいるだけの人形たちと思いがけず戦闘になった。あの時はその場にあるものしか使えず、また自身の鍛錬不足を嫌でも実感させられた。

「あの時のような愚は、もう冒さない」

 美しい刃文を睨みつけた。鍛錬はすでに強化した、そしてこれからもしていく。この刀もこれから、本分をまっとうしてくれることだろう。
 柄を握る手に、力がこもった。







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