クルィロフ家編 | ナノ
「「ご機嫌よう、ボス」」
「歴史を記録しに」「物語を紡ぎに」
「「やって参りました」」
隣り合う双子―…スェウは左にスノウは右に首を傾げ微笑む。
同じ瞳はミハイルを見つめている。
「…久しぶりだね。君達がここに来るなんてどんな風の吹き回しだい。―…さて、どんな物語をご所望かな…?」
執務室の椅子に背中を預け、ミハイルはいつもの調子でにこりと微笑む。
スェウとスノウは鏡合わせのようにそっくりな顔を見合わせくすくすと笑い出した。
「我々は傍観者」「゛初代の意向゛以外で物語を所望する事はございません」
「「お分かりのくせに」」
双子は意地の悪い笑みを浮かべる。
そんな二人に何故か笑みを深めたミハイルは、「そう言えば…」と話を変える。
「゛傍観者から演者となった少女゛の近況を知りたくないかい?」
ミハイルのその言葉に双子は表情を険しくした。
「…元が我ら一族の者と言えど」「そちらに属する事になったその時より」
「「クルィロフ家の家名は返上させております」」
さらに双子は続ける。
「我らが物語に立ち入ろうとしたわけではありません」「もとは先代様の気まぐれ…」
双子の言葉にミハイルは苦笑した。
「まぁ、大切な一族の令嬢を我々の都合で奪われたんだ。君達のお怒りはごもっともだけど、母上の気まぐれはどうしようもないのはよく知っているだろう?」
「前クルシェフスキーファミリーボス、オーデル様」「聞き及ぶ限り、あの方ほどの性悪なボスは存じません」
亡き実母の言われようにミハイルは苦笑した。
「確かに、反論は出来ないな。母はまさにファミリーのボスと呼ぶに相応しい人だったから」
ミハイルのその言葉に双子は焦点を一点に集中させるようにしてピタリと動きを止めた。
「「証言者、ミハイル・クルシェフスキー」」
「歴史、記録」「物語、更新」
「「新たな物語を紡ぎます」」
まるで機械仕掛けの人形のように。
淡々と唇を動かす双子にミハイルは「久しぶりに見たよ、それ」と言った。
「当主自ら現れるくらいだ。歴史の変わり目かな…?いつもは自分達の変わりにこの屋敷のあらゆる所に記録人形を傍観させているのにね。あ、何体かを使用人として使わせてもらってるよ」
「お好きなように」「アリアンロッド博士がどう思われるか知りませんが」
「あぁ、アリアか…その名も久しぶりだね」
クルィロフ家において「博士」と呼ばれる人物―…、その名をアリアンロッドと言い、クルシェフスキーファミリーを傍観する為に創られた記録人形の製作者を祖先に持つ青年である。
「博士は」「今のクルシェフスキー家を記録するのには記録人形では駄目であると」
「我ら当主が」「自ら歴史を記録し、物語を紡ぐ必要があると言うのです」
「真に我らは何の為に存在するのか」「今こそそれを明確にせねばなりません」
「「クルシェフスキーファミリー初代ボスの意向は我らクルィロフ家の全てなのですから」」
そっくりな双つの顔はミハイルをしっかりと見据えていた。
記録人形では事足りぬ物語。
そもそもその物語を紡ぐ為にクルシェフスキーファミリーとクルィロフ家があるのだと。そう言っている双子にミハイルは困ったような顔付きになった。
「……私は面倒事は嫌いなんだがねぇ。それに初代の意向は先代が投げちゃったし。私もいつまでもこだわるのは面倒なんだよ」
「そうは参りません」「ボス、先代オーデル様は初代の意向を無下に扱いました」
「しかし、それはクルシェフスキーファミリーの本当の意向でしたか?」「いいえ、クルシェフスキーファミリーは迫害された事実を持って復讐の物語を紡がねばなりません」
「我らはそれを見届ける為の一族」「゛降霊゛という異能を持つが為に選ばれた一族」
「その゛復讐゛の意志を語り継ぐ事だけは貴方達にしなければならない」「死人の意向だと無下にされてはなりません」
「ブリュヘル家のことなら耳に入っております」「ならば一族の宿願を果たされるのは今でありましょう」
「「初代はいつでもご覧になっている事をお忘れなく、ボス」」
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