例えばそれがほんの一瞬の出来事だとしても、彼にとっては一分とか一時間とか(いや、流石に一時間は無いだろうか)の出来事のように感じる時がある。それは会話をしている時だったり、トレーニングをしている時だったり、ああそうだ、命を懸けて戦っている時だったりもした。その度に彼は必ず息を呑みじっとその光景を見つめているのだ。身体の動きが止まる。心臓が締め付けられる。苦しい、苦しいと喉を掻き毟りたくなるがそれさえも出来ない。ただただ、目も心も思考すらその光景に奪われるだけ。それはまるで、そう、毒に侵されているような。けれども“毒”と呼ぶにはそれはあまりにも美し過ぎる。一回聞いただけではどうしても暗いイメージを持ってしまうその言葉で表わすには、彼の見る光景はあまりにも美し過ぎるのだ、彼にとっては。
「どうしたの、折紙サイクロン。ボクに何かついてる?」
「な、何でも無い、でござる!」
彼の見つめる先、先程犯罪者達を捕まえ見事ポイントを勝ち取った彼女は、真横からの視線に首を傾げた。彼は慌てて視線を逸らすが、やはりちらりちらりとそちらを見てしまう。だって、彼女が瞳を輝かせ生き生きと動き回り屈託も無く笑うその光景と言ったら!胸が苦しくなるのに目が離せない。だから彼、折紙サイクロンことイワン・カレリンは彼女、ドラゴンキッドこと黄宝鈴に今日も視線を向けるのだ。その理由も自覚しないままに。

嗚呼、美しい娘

しかし自覚した所で彼は思うのだろう。自分は見つめるだけで良い、と。


title by 嘯く若葉

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